きみの靴の中の砂

それは言わない約束

(Op.20250310-2 / Studio31, TOKYO)

 

 

 青山通りに面した硝子張りのテラスで紅茶を飲ませる専門店があって、場所柄変わった客層が集まる時間帯があった。
 早朝六時、開店直後の席に腰を据える客の多くが、疲れ切って近くのスタジオからやっとの思いで這い出してきた徹夜明けのクリエーターやアーチスト達である。

 テレビ番組の制作会社に勤める『大学の先輩の女性』と『番組の構成が仕事のぼく』が比較的よく顔を合わすのも、およそ、そういった時間帯だった。
 ふたりでいつものヒマラヤ・チャイを注文すると、大学の同じ部活にいた頃に「いつかみんなでヒマラヤをトレッキングしようね」と言っていたことなどを思い出して、「これじゃ、飲物だけヒマラヤだね」と時々大笑いするのだった。

「最近、本業以外の創作の方は、どう?」と彼女に結構真剣な表情で聞かれることがある。
「まあね、いずれそのうちに...」としか、今のところは答えようがない。

「ところで、昨日の夜、無茶な収録があって...」と彼女。
 今夜放送予定の歌番組に出演することになっていたナントカいうアイドルの男の子が、マズイところを写真雑誌に撮られたらしく、騒ぎになる前に、その子の出演部分だけ差し替えようと夜中に急な収録があって、それで徹夜になったという。

「最近、結構人気のあるグループらしく、作曲家もスタジオに来ていて、その作曲家というのがADよりも若そうなお嬢さんなんで驚いちゃった。でも、なんかゴージャスな感じのいい曲だったわよ」

 『ADよりも若そうな作曲家のお嬢さん』と『ゴージャスな感じのいい曲』というのが何故か耳に残り、その夜、ぼくは久し振りに興味津々でテレビの前に座ったのだった。

 

 

【ribbon - それは言わない約束】

 

 

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