きみの靴の中の砂

初めてきみを見たのは...

 

 

 スイスに似た気候は元より、斑尾山・黒姫山辺りの山容に愛着を持つ人達が夏の野尻湖畔に避暑に集まる。

 町並みが開けているのは駅のある西側の湖畔で、対岸は、YMCAや東洋英和女学院のコテージが並ぶ辺りまで行くと、堀辰雄があの独特な文体の短篇小説『晩夏』で描いた頃の空気が残っている。

 ぼくが中高生だった頃の夏の思い出は、毎年参加していたYMCAの欧米式サマーキャンプに集約される。
 キャンプと言ってもサマースクールなので、キャビン —— 二段ベッド八人部屋の木造バンガロー —— に寝泊まりする他は厳格な時間割があり、それに則り、宿題もあった。

 八月に入るとすぐに始まる男子中高生五十人ほどによる二週間の長期キャンプの後に、別募集の男女中高生四十人ほどの短期キャンプが一週間続く。ぼくら男子中高生の何人かは両方通じて参加するので、自宅のある都会で過ごすのは、夏休みの半分の日数もなかった。

 初めてきみを見たのはあの年の夏、二週間の長期キャンプが終わった日。
 普段は観光遊覧船である白い大型船が、帰京する長期キャンプの参加者と入れ替わりに、短期キャンプに参加する一団をキャンプ場前の浮桟橋に降ろした時のことだ。その中にきみがいた。

 

 

【Sina, Andrei Cerbu, Andreea Munteanu, Miruna Harter - Whole Lotta Love】

 

 
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