きみの靴の中の砂

ギミックでトリッキーな文体





 彼は自らを詩人と言ったことは一度もないだろう。傍目にもそう思ったことはない。詩的表現の多い散文家とでも言えばいいだろうか。詩人ではないので散文詩人であろうはずもなく、ぼくなりには、今のところそういうくくりの作家・文筆家は、ほかにアメリカにひとり、日本にひとりふたり。

 彼の頭の中に灯ったイメージは、概ね十五行四百字ほどにまとめられる。それを静かに呼吸するよりもさらにいくらかゆっくり読む。するとその読了までの百秒にも満たない文章の印象が、一本の気に入った長編映画を見終わった後のように膨らんでいるのがわかる。つまり、自分と作家の波長が合うと、行間に省略されている何万語かが見えてきて圧倒されることとなる。

 省略の多い、ギミックでトリッキーな文体は、この半世紀、ぼくの変わらない目標になっている。

 彼とは誰か ------ 今のところ、彼と波長の合う読者が他にいるという確証がないので、ここでは明かすのは止めておこう。また、明かしても、その名を知る人など極めて稀だろうし...。




【Nickolaj - I Feel Fine】

 

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