きみの靴の中の砂

鳩サブレー





 三月最終週の午前中、北鎌倉・円覚寺の境内を水口イチ子と巡った。
 その後、寺領の北のはずれを接する浄智寺脇の山道を登って葛原岡神社に至り、さらに銭洗い弁財天を経て鎌倉駅へと下った。途中、葛原岡神社に祀られている十四世紀の文人・日野俊基卿に、イチ子は、いたく感心していたようだった。

                             

 昼を大分過ぎた頃、ぼく達は、鎌倉駅前商店街のとある食堂に座っていた。
 イチ子は生シラスを食べるのを楽しみにしていたのだが、一月から三月までは禁漁期間だと店から聞かされ、少なからずガッカリしていた。でも、その代わりに注文した冷凍シラスの釜揚げが揚げたてだったことを大層喜んだ。
 シラスを味わいながら、ぼく達は麦酒を飲んだ。そして今日いち日のことを話し、そしてまた麦酒を飲んだ。

 帰途、鎌倉駅前の豊島屋で、ぼくは、イチ子の好きな鳩サブレーを買った。

 陽はまだ高かったが、駅前広場には、そろそろ帰り支度を始めた、遠来の観光客の雑踏が次第に膨れ始めていた。




David Soul / Don't Give Up On Us


 

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