あれは馬籠か妻籠、いずれの宿場でのことだったか...。
端切れで作られたいくつもの照る照る坊主が竹の枝先にぶら下げられ、古い建物の軒先で風に揺れている。
その昔、『木曽路はすべて山の中である』と島崎藤村が書いたその地形では、天気など当てになるはずもなく、晴れて霞んだ山並みが、たちまち厚い雲の中で息をひそめることもめずらしくなかったことだろう。
一日に一組二組しか宿泊客を取らないその古い旅籠の若い女将が、自らの客に加え、町を通り過ぎて行くだけの見知らぬ旅人の安泰をも祈りつつ、それら軒先の人形を作ったのではないかと思ったのは、秋も深い旅の夕暮れのことであった。
【Captain & Tennille - Muskrat love】