きみの靴の中の砂

トロントまで150マイル





 オンタリオ州との国境にも近い、この街の八月の午後は、静寂の広がる沼地を思わせる。

 ダルシマーを抱えた、若いインディアンらしい風貌の女が、シティホールの正面階段に座っている ----- ぼくは停めた車からパストラミビーフのサンドウィッチを食べながら眺めていた。

「よう、あんたの車、スパイダーだろ?」と通りすがりの白人老人がフランス語訛りで話しかけてきた。
「ええ、そのとおりです。もう半世紀も前の車です」
「アルファロメオだね。最近、とんと見なくなったな」と首を何度か横に振った。

                   ***

 きみの住むトロントまで、まだ150マイルも離れた街でのことであった。




【Maaya Sakamoto / Here, There & Everywhere】


 

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