白波が浅く砕けるリーフの一角に幅三ヤード程の狭い水路が切ってあって、本島からは小型のボートでその島に渡ることが出来た。
島と言っても引き潮の時にテニスコート四面程の白い砂地が顔を見せるだけだから、厳密には、やはり珊瑚礁なのだろう。
今朝、食事の後、ホテルのテラスでムーアヘッドの『恐るべき空白』を読んでいたら、少し顔見知りになった年配のウエイターが、比較的聞き取りやすいコックニー英語で話しかけてきた。
「フロント・デスクに言えばフィンとボードを貸してくれますから、リーフまで遊びに行ってこられたらいかがですか。風も穏やかですし、それに今日は、ちょうど昼過ぎから引き潮になるのでタイミングも良いでしょう。送り迎えは、ホテルがボートを用意しますから...」
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そう言われて、やって来て、本当に良かった。
五人の客を上陸させると一旦帰るのかと思っていた若いスタッフは、乾いた砂の上に日除けのターポリンを張り、簡易トイレのテントを組み立て、飲み物の入ったアイスボックスを上陸させ、共にとどまった。
「ホテルへ十六時に戻ります。それまで自由時間です。サンドイッチと飲物の用意がありますので、随時、おっしゃって下さい」
珊瑚礁を吹く風が、耳元に乾いた音を残していく。