きみの靴の中の砂

春ひらく

 

 

 小津安二郎のトーキーによる戦後の全作品のシナリオに関わった脚本家・野田高梧(のだ・こうご 1893 ~ 1968)の著作『決定版 シナリオ構造論』について。

 シナリオ・ライターを目指す人のバイブルと言われて70年が経とうという本書 —— 初版は昭和27年、神田・寶文館から定価250円で上梓された。その後『シナリオ構造論 改版』として再版もされた。

 改版の帯には『シナリオ制作の代表的入門書』とあるが、その後シナリオ・ライター志望者が減り、1987年以降は増刷はされておらず、古書肆で一万二千円もの値段が付けられた時期もあった。しかし!今、アマゾンに電子版がリリースされているところをみると、尚も需要があり、シナリオライター必携であることに変わりはないようだ。

 同書を紐解いて意外なのは、この本が昨今常識のハウ・トゥ本のスタイルを取ってはおらず、技術書 —— テクニカル・ハンドブックとして執筆されていることだ。
 『1秒間3回転、即ち24コマ、1分間の速度にすれば89.9フィートの標準速度による.....』などの専門的記述もあるので、一般向け教養書というよりは芸術系大学でシナリオを専攻する学生のテキスト・副読本レベルである。

 昔の著述家の文章らしく、無駄がなく、発音して美しいリズムの日本語で書かれていて、内容はわからずとも作文の勉強になる。また、ストーリーの構成についての一章は、それがシナリオだろうが戯曲だろうが小説だろうが関係なく役に立ち、それを別にしても、純粋に創作家としての教養になる。

                   ***

 好きな野田のシナリオを一本挙げろと言われれば、やはり小津との共作で、1974年の師走から翌年の春まで CX(フジテレビジョン)で放映された21回シリーズ『春ひらく』である —— TV版では複数の作家に翻案、脚色されることとはなったが...。
 主題歌には、Daniel Sentacruz Ensemble で世界的にヒットした “Soleado” が使われた。

 

 

【Daniel Santacruz - Soleado】

 

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