雑物ひしめく、埃をかぶった棚の一角を片付ける。
突然、昔、無人の山小屋で灯した、古い使いさしの蝋燭が現れた。
半径十キロ以内には、まず誰もいそうもない、丹沢の山また山のそのまた向こうの山の頂き近くに、ちっぽけな避難小屋があって、そこにひとり泊まった夜のことだ ——— 折れて地に落ちた枝や枯れ葉が、冬のさ中の風に吹かれて、地表をひたすら右往左往していたものだ。それらが地を這う音は、ちょうど人や獣が何か曰く有り気に忍び寄る時の、あの足音にも似て大層恐怖したのが思い出される。
あの夜、風が隙間漏る小屋の卓子の上で、暖かい光を灯していたのが、この蝋燭であった。
【Mick Hucknall - One Of Us Must Know】
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