きみの靴の中の砂

ターコイズ・ブルーのインク





 今年も一緒に夏の休暇を過ごせなかったと、きみの不満げな文面。いつになったら二人で旅ができるのかとぼくを責める葉書がマレーシアから届いたのは、東京の夏空に綿雲も輝き出した1981年の8月初めのことであった。

『早朝、クアラルンプールを発って、鉄道に揺られて六時間あまり、バターワースに着いたのが昼少し前。そこからペナン島のジョージタウンへはフェリー、もしくは鉄道かバスで連絡橋を渡るのが常套手段なのに、たまたまランチに入った中華料理店の若いウエイトレスに奨められた輪タク。それでペナン・ブリッジを渡り、十数キロの道のりをホテルまでやって来た』という。

『湧き立つ雲がスコールを呼ぶ気配を見せ始めると、リゾート客達はこぞってホテルの部屋へ引き上げてしまった。人気の途絶えた海岸通り。色付きタイルを貼り混ぜたように見えたパラソルが、なぜか寂しく感じられた夏の休暇第一日目』と、ターコイズ・ブルーのインク文字が伝えていた。




【Craig Ruhnke / It's Been Such A Long Time】


 

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