『夏の後ろ姿も見えなくなった、この神無月の朝、村の至る所で金木犀の蕾がほころび始めた』と例年ならとっくにここに書いているところだ。ところが今年は暑い夏が続いたので、植物学の理論どおり、金木犀は開花時期が随分遅れている。
*
ところで今朝、イチ子さんが台所でメモしている日々の献立帳の頁を繰って、去年の今頃は何を食べていたか調べてみた。
余白に走り書きを見つけた。
『昔、調香を仕事にしていた後輩が、金木犀の香りを香水にしてくれたことがあった。その透明な滴壜に詰められた香りは、もったいなくて使わずにいたら、いつの間にか揮発してしまったけれど、時折、本棚の片隅で埃をかぶったその空き壜に目が留まると、あの眠りを誘うような甘い香りが思い出されるのだった。』
【Phil Ochs - Changes】