きみの靴の中の砂

僕だけ年をとったようで.....




 どこへ出かけるにもカメラを携えていく。だから嬉しい場面が撮れることもあれば、不幸な場面を撮ることもある。
 今日の一枚-----汐入の『ベイスクエア』を正面に見て、歩道橋の五十メートルくらい手前からの写真。

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 かつてデートのたびに、いつもその歩道橋の下あたりでガールフレンドを車に乗せた。もちろん、今から何年も前の話だ。久し振りに通りがかったら、運悪くダイナモが故障していたらしく、バッテリーが上がって、その思い出の場所でエンスト。こんな時、目立つ黄色いフィアット500Rは具合が悪い。追い越していく、ほとんどの車のドライバーに覗き込まれる。今度こそ国産車にしてやろうと決心した。

 昔、この辺りで車に乗せたガールフレンドと、その後、僕は結婚した。その彼女は今、エンストした車の助手席にいて、JAF のヘルプが来るまでの間、悠長に iPod を聴いている。
「なにを聴いてるの?」と僕は大声で尋ねた。
 イチ子はイヤフォンをはずして、こちらに渡しながら、
「オトナモード」と答える。
「あなた好きでしょ? そういうクリアなロック.....」
 幹線道路でエンストした車のオーナとしては、こんな会話をする余裕など、本当はあるはずもないのに.....。


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 曲を聴きながら思った。きみは知り合った頃と少しも変わらないのに、僕だけ年をとってせっかちになったような気がする。エンストくらいで一人あたふたして.....。それをきみに悟られまいと、僕はカメラを周囲に向けて、何回もシャッターを切ったのだった。


FINIS
 

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