きみの靴の中の砂

ピンクのカバ





【プロット】

 兄の小学生時代からのお友達のFさんが、兄の誕生日にプレゼントがあると言って、週末、会社帰りの兄を呼び出したそうです。私もFさんから兄との会食におまけのように誘われ、神宮外苑にあるアンダルシア料理のお店に連れて行ってもらいました。オリーブオイルとガーリックで調理された魚介料理が冷たい白ワインによく馴染みました。
 そのお店は、Fさんの知り合いのスペイン人のおばあさまが、ご家族と一緒にやっていらっしゃって、メニューには載せてはいないのですが、羊の脳味噌のオーブン焼きという家庭料理が自慢なのだとお聞きしました。親しいお客さまから要望があると作るそうです。今夜は生憎羊の頭が手に入らなかったということで食べられませんでしたが、大層美味しいものだとうかがいました。私は正直、胸をなで下ろしましたが...。

 兄はFさんから、立派なクリスタルのロック・グラスをプレゼントされていました。
 私に何もないのは寂しいと言って、Fさんは、先日取引先からもらったという、可愛い、ピンクのカバのUSBメモリーを上着のポケットから出してくれました。

「念のため、初期化してね」とFさんに言われたとおり、帰宅後、USBメモリーをパソコンに刺すと、画面にファイルがひとつ ------ Fさんに悪いな、「いけない、いけない」と思いながら開いてみると、手紙の下書きのようなものが書かれていました。内容は、この夏、北欧を旅した話や『将来の夢や希望』などが日記体で書き連ねてあり、五千字くらいあったでしょうか。

                            ***

 予期せぬこととは言え、最後にどなたか知らない方へのプロポーズの言葉のようなものまで書かれているのがわかったとき、わたしは読んでしまったことを激しく後悔しました。Fさんへのお詫びの言葉が咄嗟には頭に浮かびませんでした。
 そして、文末にFさんの署名。さらに、画面からはみ出していた部分をスクロールすると、そこには宛先として、思いもよらない文字 ------ 私の名前が書いてあったのでした。


 

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