きみの靴の中の砂

グレープフルーツの滴りがささくれに染みたら嫌だ

 

 

 目覚まし時計より先に体内時計で目が覚めた。
 薄目を開けて時計のデジタル表示を見ると6:25。あと五分で目覚ましが鳴るな...。
 いや、待てよ、今日は日曜日だから鳴らない設定だ。
 そうか、まだ起きなくていいのか...。

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 目覚める直前に見ていた夢の記憶が微かに残る。

 遠く、湘南らしい穏やかな海が見える高台の庭先。
 藤棚の下。
 長方形の大きな木製のガーデン・テーブルに若い女と並んで腰掛けている。
 水口イチ子か。恐らくイチ子だろう。
 気候は温かく、ふたりとも夏服だ。
 藤棚に花はなく、葉だけが茂っているところを見ると五月の終りか六月の初め。いや、夏服を着ているから季節はもう少し下った頃かもしれない。

 テーブルの上にふたつに切ったグレープフルーツ。
 受け皿はなく、錆色の付きかけたカーボン・ブレードのナイフがひとつ。
 どうやって食べるんだろう。手で剝くなり好きにしろということか。

 いつ頃の記憶と結びついている情景なのかよくわからない。

 皮を剝かなくちゃ。
 果実と皮の間に親指の爪を立て、さあ、今から力を入れようという瞬間 —— グレープフルーツの滴りがささくれに染みたら嫌だなぁ、とは考えていなさそう。





【Rick Mathews - New York Lady】

 

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