八月の海。太陽は南中を過ぎたようだ。砂混じりの風が強い。
カー・ラジオを点けると、AORやシティポップがいつでも聞こえていた頃のことだ。
防波堤下のモータープールに駐めたイチ子のホンダ・Z —— 13年目の空冷エンジン —— にとって、夏は、ぼく達と違って苦手な季節になっていた。エンジンの息づかいは大分荒くなっていたし、ボディの至るところにサビが浮いていた。ナンバープレートを見なくても、塗装を見れば、普段から海辺を走らされている車なのはすぐにわかった。
「こうなると、もう中古車とも呼べないわね」とイチ子が笑う。
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車なら家まで五分ほどだから、Zが息切れする前に家に戻れる。
ボードはホースで水を掛けて塩分を流してやるのに、Zはそのまま雨待ちのテイ。エア・フィルターだけは、月に二、三度はずし、掃除機を掛けるのだけは励行していたようだ。
夏休み中、早朝から海に出た日は、帰宅後、車庫の水道でシャワーを何度か浴びるだけで、ふたり共いち日中水着のまま過ごすこともあった。