きみの靴の中の砂

幸せの寸法




 夏の夕方、宵宮へ行く道すがらのことでした。

 巻き尺から白いコードが伸びていて、その端が、昔、台所のガス台の側にあった徳用マッチ箱大のコントローラーらしき緑色の合成樹脂の箱に繋がっています。

「それはなに?」と問うと
「幸せの寸法を測る最新式の測定器だ」と地味なアロハシャツを着た幼馴染みの鶯谷浅太郎が答える。
 いまひとつ、測定方法が想像できないので測ってみて欲しいと頼むと実演して見せてくれた。
 たまたま通りがかって呼び止められたのが、慈恩院下のアパートに住む、顔見知りの建築業者 --- わかり易く言えば、旦那様が元大工さんの初老のご夫婦。
 浅太郎は旦那様の方に
「この間、クラブ・ハットトリックのペペロンチーナちゃんのところへ行ってきました」などと軽口を叩きながら巻き尺を空に向けて一尺程延ばすと、コントローラーを口に近づけ、短くささやいた。
「測定!」
 エッ、音声コントロールなの?!
 しばし、息を呑む時間...。
「よ~しッ! 測定終了!」浅太郎は、あたしを上目遣いに見ながら、
「聴いて驚け! こちら、向山さんご夫妻の幸せの寸法は、およそ一間半だ」と宣言したのでした。

 驚かなかったのかと聞かれれば、予想外の展開にいくらか面食らいました。
 それは、幸せの寸法を測ったと言うよりも、どこか仕舞屋の裏の物置の間口でも測ったようにしか聞こえなかったものでしたから...。


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“Gimme Some Lovin´” Spencer Davis Group


FINIS
 

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