それから何時間かして、小雨に見舞われた歩道が、復活した陽射しに再び乾き始める頃のことだ。 人影もまばらな住宅地の日曜の午後に、どこからか聞こえてくる手慣れた洋琴。 なだらかな坂道を下って、わたしは今、ひと瓶のインクを求めに行こうとしている。 * 次第に眩しさを増す光。 驟雨に濡れそぼり、緑の絵の具で色濃く塗られたような木々達が揺れる、今その夏のはじめ。 【市川実和子 - 私の家】