文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

出版界をパニックに陥れた山田一郎改名事件

2021-12-21 18:57:08 | 第5章

そして、翌週に掲載された「スケベ学部のエロ塚なのだ」(74年2号)では、扉ページから、パパが元気よく登場し、「今回より 赤塚不二夫は山田一郎と改名しましたのだ‼」「町であったら 山田くんとよんであげよう‼」と、読者に呼び掛ける。

そう、赤塚が次に仕掛けた読者への術策は、ペンネームを「赤塚不二夫」から「山田一郎」に改名するという、実に意表を突く、豪胆な悪戯だった。

(但し、これより一つ前の「週刊少年マガジン」1974年1号掲載の「ギャグ界の独裁者 赤塚不二夫の秘密大百科」と題された特集記事の巻末ページで、ペンネームを山田一郎に改める旨を然り気なくアナウンスしており、最後まで記事に目を通した者だけが、情報を先取り出来るという、赤塚らしい粋なファンサービスが凝らされていた。)

改名の理由に、赤塚は、漫画家は創り出された作品で勝負するのであって、名前で読まれるものではないと改めて痛感したからだと、公式では語っていたが、実際は、たまたま私用で銀行に訪れた際、凡例として、記入用紙の氏名欄に住友太郎と書かれていたのが、妙に可笑しく、そんな匿名性をギャグに特化出来ないかと思い立ったのが、改名に至ったそもそもの動機だった。

山田一郎という、敢えて平凡なペンネームに改名したのもその影響だ。

山田一郎への改名は、『バカボン』だけではなく、『レッツラゴン』、『ギャグゲリラ』等、この時、連載していた全てのタイトル(イレギュラーの読み切り等も含む。)に及び、出版業界全般に多大な激震を与えることとなる。

興に乗じた赤塚は、他の執筆者にも、山田一郎への改名を煽動するが、結局のところ、賛同者を得ることが出来ず、その波及運動は頓挫してしまう。

赤塚にしてみたら、作品に独特の節があれば、読者は誰の作品かはわかる。

だからこそ、名前に拘る意味もないという想いを、この改名に込めていたのかも知れない。

山田一郎の筆名は、1974年3月10日発売以降の全掲載作品で、再び、元の赤塚不二夫へと戻される。

その最たる理由は、何と言っても、赤塚不二夫が超ビッグネームであるがため、山田一郎では、それ以上の宣伝効果を持ち得なかったからであろう。

また、赤塚不二夫への再改名について、赤塚自身、笑い話として語っていたところでは、山田一郎時代、マンションの隣人であった暴力団関係者の情婦にチョッカイを出したことで、美人局の被害に遭ったり、週刊誌沙汰になったりと、トラブルが度重なり、姓名鑑定においても、決して運気をもたらす名前ではないと判断されたからだということも、その理由の一つに挙げている。

因みに、赤塚不二夫名義で、再出発した「二番煎じの王さまなのだ」(74年16号)の扉ページには、次のような小文が、サインペンによる手書き文字で記されている。

「今回より 山田一郎改め 赤塚不二夫になりました‼ だって 山田一郎になってからロクなことがなくてアタマにきたから‼」

また、「少年サンデー」で同時連載していた『レッツラゴン』では、山田一郎に改名していた際に降り掛かった波乱の数々を、レギュラー陣出演による再現ドラマをベースに、虚実織り混ぜて振り返った「赤塚不二夫のレッツラゴン」(74年16号)というエピソードが執筆され、この時の扉ページには、こんな一文が添えられていた。

「おれがペンネームを〝山田一郎〟にかえて三十年になるが、この間 まったくロクなことがなかった。アタマにきた‼ よって今回からまた、赤塚不二夫‼」

このエピソードでは、冒頭から、赤塚本人も登場し、前出のトラブルから、マスコミに追い掛け回された憤りを赤裸々に訴えるも、レギュラーキャラに、軽くたしなめられたりと、楽屋ネタに絡めた自虐的ギャグもふんだんに盛り込まれており、モンドムービーさながらのキッチュで扇情的なグルーヴが画稿狭しとバーストするカルトな怪編として、今尚、記憶に留めているファンは多い。


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2 コメント

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Unknown (MT)
2022-01-02 21:49:52
これは驚きました。まさか赤塚先生が、ペンネームを「山田一郎」と変えるとは!!

21世紀前後、「バカルディ」を「さまぁ~ず」に、「海砂利水魚」を「くりぃむしちゅー」に変えるなど、芸能人では半ばタブー的な「芸名変え」がありましたが、いくら「漫画家はペンネームではなくて漫画だ」とはいえ、長年親しまれたペンネームを変えるとは。

しかし約3ヶ月で「赤塚不二夫」に戻してしまいました。これでよかったかもしれませんか、もしさまぁ~ずみたいに「山田一郎」になって人気者になったとしたら、どうなってたかも!?
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Unknown (douteinawa)
2022-01-22 19:39:36
MTさん

そういった意味でも、赤塚はそうした改名ギャグの先駆者であったと、個人的にはリスペクトしております😊

他にも赤塚は、「東大作」や「赤ノ塚不二夫」等、改名ギャグをしておりますが、それは新たに別項を設けて記述したいと思います。
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