文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

オフビート感覚いっぱいの少女コメディー『テッちゃんただいまケンカ中』

2020-06-07 21:33:04 | 第3章

「少女フレンド」誌上にて、『ヒッピーちゃん』の連載開始直前に、短期集中連載された『テッちゃんただいまケンカ中』(67年47号~50号)も、アッコちゃんやキビママちゃんのような典型的な赤塚美少女キャラを主人公に定めたことで、一見華やかさを纏った作品に見えるものの、その内容は明らかに非可逆的に爆走暴走モードへと急加速してゆく少年向け赤塚ギャグに歩調を合わせたもので、少女雑誌掲載作品には珍しい、オフビート感覚溢れるスラップスティックコメディーに仕上がった。

一見仲良しのようでもあるが、毎日弟のチカオとの喧嘩が絶えないテッちゃんは、ある日空き地の土管で昼寝をしていた謎の男から、舐めると身体に超人的な能力が漲るという不思議なドロップを譲り受ける。

そのドロップを一粒舐めたとたん、テッちゃんは誰にも負けないスーパーレディーへと変身。その溢れんばかりの強力なパワーで、本当は大切に思っているチカオを虐めた番長に意趣晴らしをしたり、犯罪者の逮捕に協力したりと、八面六臂の活躍を繰り広げてゆく。

本作におけるアウトサイドとしての笑いは、ひたすら激しく衝動的ではあるが、『ひみつのアッコちゃん』とはまた趣向を相違させた、子供の憧れをダイレクトに具現化したアイデアが秀逸で、等身大のお転婆な女の子の、現実世界から束の間の跳躍を夢見る変身スペックをモチーフとしたそのセンス・オブ・ワンダーは、若干クラシックなコンセプトではあるものの、読者に憩いと賛嘆を与えて余りあるロマンと輝きが発顕されている。

そんな特殊能力を駆使したアイデアを巧みに接ぎ合わせることにより、この作品が、冒険活劇やSF的展開にベクトルを向けた、新たな世界観への開拓を十二分に示唆していた点を考えると、本格的なシリーズ化へと至らなかったことが、非常に残念でならない。

尚、本作の主人公・テッちゃんは、『キビママちゃん』に登場した大川家の長女・テツ子がそのまま主役を務めたキャラクターであり、その相も変わらぬ跳ねっ返りな性格ぶりには、思わず笑みが零れてしまう。


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