機動戦士ガンダム0079 ジオン第八連隊記 復興(あす)への咆哮
報告書6 『棺』
「…ん。この荷物は、と。20バンチ オニガシマ・コロニー宛か。ってヒノモトのだ。あいつ本当に家族想いだな。」
「シモムラとは大違いだ!見習え!!」
俺にとって毎日係長に怒鳴られ叱られるのは仕事の一部だ。震災発生から半月以上が過ぎ部隊にも普段のペースが大体戻ってきた。俺はあれから非番の日に連隊や自治会のお膳立てで地元の学校、仮設住宅で法話をやったり坊主らしい事も多少した。とは言ってもジオン軍で「宗務科」ってマスコミ用語で言う従軍僧侶や従軍牧師に相当する兵科は俺が徴兵、入営する1期前だかに廃止されてしまった訳だが。ただ
「シンショーのごっこ遊びだ」
なんて陰口叩いてた奴は兵隊でも民間人でも一人もいなかったと思う。不幸だの危機だのに直面するとニンゲン何だかんだ言って信心深く?なるもんだ。
「しっ、放送だ」
「……2中、4中、7中内名ナンバー小隊総員、及び中隊本部の手空き要員に告ぐ。 第三種戦闘軍服に手袋とヘルメット着用で舎前に集合。ヘルメットはプラヘルでなくテッパチ。将校は上衣にマント着用。 繰り返す…」
「シモムラ、行ってこい」
「了」
地上用野戦服じゃなくて三種?ここ最近三種なんて殆ど礼服みたいなもんだ。一体何の仕事だ。
「おいこらっシモムラ!テメーは三種じゃなくて衣だ馬鹿野郎ォ似非坊主!あ~~もういい、内務班から衣だけ持ってきて後から現地で着替えやがれッ」
「ふぇ?」
7中隊長の「下品キューピー」ことササキ大尉は三種でマントを翻してもやはりサイコーに口が悪い。しかしこの慌しさなんだが凄い偉い人でも来るのか?
シワス。師走…中世ヤープト語で師即ち僧も走るほど忙しいのが語源というがそのまんまだな。
「乗車、乗車ァ!」
何ともせわしなく前後を憲兵パトカーに固められた官用車に乗って着いた先は再開発に失敗した学園都市ニューヒガシイマサ・トの運動場にされる筈だった空き地。 気持ち良くなる広さだ。
その片隅に歩兵に厳重に守られた沢山の大きな箱が並んでいる。
棺だ。
並んでいる箱は上面蓋にジオンの国章が印刷された棺だった。
「…本来は、ウチ等の為に用意された奴だったんだ」
中隊長の言葉はいつに無く重かった。絶対必要なんだが、辛い仕事だ。
震災発生から半月以上経過し被災した火葬施設も多くが復旧のままならない中で都下、近県から氷やドライアイスをどうにか調達して遺体を保管する努力も限界に達し、結論生態認証を行っている銀行やカルテの残っている歯科医師会等の協力を得て本人が確認できた遺体は特例措置で仮埋葬が実施される事となった。
重い棺を各4人で担ぎ埋葬の穴まで運び見渡す限り棺が並べられていく。
「全ての御霊に対し、敬礼!」
中隊長の発する号令に合わせて棺に向かい兵士たちが一斉に敬礼する。
棺に納められた犠牲者は民間人の他任務中に巻き込まれたジオンの軍人軍属、それ以外に捕虜収容所や拘置所で死亡した連邦兵も混じっていた。
「……於一切、我等与衆生、皆共成仏道」
俺は僧として、ケロイドの顔とこれだけは小奇麗な衣で合掌読経する以外の事は何もできない。
その時だった。怒りの表情で顔を真っ赤にした少年が穴から連邦兵の棺を引きずり出しバールで蓋をこじ開け遺体をこれでもかこれでもかとぶん殴り始めた。
「やめろボウズ!いくら敵だからって仏さんだぞ!」
「坊主が俺をボウズって呼ぶなァ!!去年俺ん家のおばあちゃんは飲酒運転の連邦兵の自転車に撥ねられて死んだんだ!!なのにこいつらァア…!畜生ォ!!」
俺は怒り心頭な少年の腕を捻り上げ、まあ…こう言った。
「オメーのおばあちゃんを飲酒運転の自転車で撥ねて殺したクソ連邦兵が地震の巻き添えでくたばった?そいつは良かったじゃねーか。おめでとさん! だけど死んだらみんな仏様なんだからもう悪口言ったりいじめたりしちゃ駄目だぞ」
ひ弱で御人好しでひたすら喧嘩に向かないヤープトの民族性に感謝する他無い。怒りで顔を真っ赤にしていたおばあちゃんっ子の少年は俺のいかにもソレらしい出鱈目に納得し連邦兵の遺体を更に損壊する行為を止めた。
「ごめんなさい…上から土を被せて埋葬するの、俺もやります」
「円匙でおばあちゃんの仇の遺体の顔切り裂くとかされたらたまらん。駄目だ」
「よくあの修羅場を収めてくれた。さすがは腐っても僧侶だな。んッ…礼を言う。しかしな…さっきお前が言った『死んだらみんな仏様なんだからもう悪口言ったら駄目だぞ』ってやっぱ仏典に書かれてる教訓とかなのか?」
「まさかぁ! あの仇討ちのボウズにはわからなかったけど旧世紀の中世ヤープトでエ口小説家から尼僧に転職したババアが法話だとか抜かしてほざいたたわ言のパロディです」
「んなろぉテメェ…。さっき礼を言ったのは完全ナシだ。帰隊したら泣くまでボコる。あと今週『テメーだけ』夕食抜きだ。返事ィィ!!」
「はい!!」
内務班なり中隊単位なりで「連帯責任だな」と言わずにわざわざ「テメーだけ」(←こいつが重要だよ♪)と明言したのは中隊長が立場的に行政上の難しいナニとかはともかくこの時の俺の機転に本気で感謝していたからだと思う。実際俺は仏典からの引用だとかテキトーな「放便」は用いず
「ババアのたわ言のパロディ」
と正直に話したからな♪ いい仕事をした後は自分自身も本当に気持ちいいもんだ。
報告書6 『棺』 完
次回予告
人って嫌な生き物だ。「おめでとう」よりも「ざまあ見ろ」の方が遥かに興奮してしかも爽快だろ?平時でも戦時でもな。俺もそうさね。ムカつく敵が何十人単位だかで吹っ飛んだり黒焦げになったりしてそれでも不運な奴がまだ死ねずに散々苦しんでるトコ見たら最高に酒と飯が旨いわな!
でもな、馬鹿な俺でも敵と味方の、懲らしめてやる奴と守るべき愛する者の区別くらいはつく。愛する者の身に起きた不幸に「お気の毒」と感じたりお悔やみを言う位の知能はあるんだ。そこん所ヨロシク!!
次回 報告書7 『生かせ、いのち』
俺が言うと、偽善だ。
(C)伊澤屋/伊澤 忍 2671
報告書6 『棺』
「…ん。この荷物は、と。20バンチ オニガシマ・コロニー宛か。ってヒノモトのだ。あいつ本当に家族想いだな。」
「シモムラとは大違いだ!見習え!!」
俺にとって毎日係長に怒鳴られ叱られるのは仕事の一部だ。震災発生から半月以上が過ぎ部隊にも普段のペースが大体戻ってきた。俺はあれから非番の日に連隊や自治会のお膳立てで地元の学校、仮設住宅で法話をやったり坊主らしい事も多少した。とは言ってもジオン軍で「宗務科」ってマスコミ用語で言う従軍僧侶や従軍牧師に相当する兵科は俺が徴兵、入営する1期前だかに廃止されてしまった訳だが。ただ
「シンショーのごっこ遊びだ」
なんて陰口叩いてた奴は兵隊でも民間人でも一人もいなかったと思う。不幸だの危機だのに直面するとニンゲン何だかんだ言って信心深く?なるもんだ。
「しっ、放送だ」
「……2中、4中、7中内名ナンバー小隊総員、及び中隊本部の手空き要員に告ぐ。 第三種戦闘軍服に手袋とヘルメット着用で舎前に集合。ヘルメットはプラヘルでなくテッパチ。将校は上衣にマント着用。 繰り返す…」
「シモムラ、行ってこい」
「了」
地上用野戦服じゃなくて三種?ここ最近三種なんて殆ど礼服みたいなもんだ。一体何の仕事だ。
「おいこらっシモムラ!テメーは三種じゃなくて衣だ馬鹿野郎ォ似非坊主!あ~~もういい、内務班から衣だけ持ってきて後から現地で着替えやがれッ」
「ふぇ?」
7中隊長の「下品キューピー」ことササキ大尉は三種でマントを翻してもやはりサイコーに口が悪い。しかしこの慌しさなんだが凄い偉い人でも来るのか?
シワス。師走…中世ヤープト語で師即ち僧も走るほど忙しいのが語源というがそのまんまだな。
「乗車、乗車ァ!」
何ともせわしなく前後を憲兵パトカーに固められた官用車に乗って着いた先は再開発に失敗した学園都市ニューヒガシイマサ・トの運動場にされる筈だった空き地。 気持ち良くなる広さだ。
その片隅に歩兵に厳重に守られた沢山の大きな箱が並んでいる。
棺だ。
並んでいる箱は上面蓋にジオンの国章が印刷された棺だった。
「…本来は、ウチ等の為に用意された奴だったんだ」
中隊長の言葉はいつに無く重かった。絶対必要なんだが、辛い仕事だ。
震災発生から半月以上経過し被災した火葬施設も多くが復旧のままならない中で都下、近県から氷やドライアイスをどうにか調達して遺体を保管する努力も限界に達し、結論生態認証を行っている銀行やカルテの残っている歯科医師会等の協力を得て本人が確認できた遺体は特例措置で仮埋葬が実施される事となった。
重い棺を各4人で担ぎ埋葬の穴まで運び見渡す限り棺が並べられていく。
「全ての御霊に対し、敬礼!」
中隊長の発する号令に合わせて棺に向かい兵士たちが一斉に敬礼する。
棺に納められた犠牲者は民間人の他任務中に巻き込まれたジオンの軍人軍属、それ以外に捕虜収容所や拘置所で死亡した連邦兵も混じっていた。
「……於一切、我等与衆生、皆共成仏道」
俺は僧として、ケロイドの顔とこれだけは小奇麗な衣で合掌読経する以外の事は何もできない。
その時だった。怒りの表情で顔を真っ赤にした少年が穴から連邦兵の棺を引きずり出しバールで蓋をこじ開け遺体をこれでもかこれでもかとぶん殴り始めた。
「やめろボウズ!いくら敵だからって仏さんだぞ!」
「坊主が俺をボウズって呼ぶなァ!!去年俺ん家のおばあちゃんは飲酒運転の連邦兵の自転車に撥ねられて死んだんだ!!なのにこいつらァア…!畜生ォ!!」
俺は怒り心頭な少年の腕を捻り上げ、まあ…こう言った。
「オメーのおばあちゃんを飲酒運転の自転車で撥ねて殺したクソ連邦兵が地震の巻き添えでくたばった?そいつは良かったじゃねーか。おめでとさん! だけど死んだらみんな仏様なんだからもう悪口言ったりいじめたりしちゃ駄目だぞ」
ひ弱で御人好しでひたすら喧嘩に向かないヤープトの民族性に感謝する他無い。怒りで顔を真っ赤にしていたおばあちゃんっ子の少年は俺のいかにもソレらしい出鱈目に納得し連邦兵の遺体を更に損壊する行為を止めた。
「ごめんなさい…上から土を被せて埋葬するの、俺もやります」
「円匙でおばあちゃんの仇の遺体の顔切り裂くとかされたらたまらん。駄目だ」
「よくあの修羅場を収めてくれた。さすがは腐っても僧侶だな。んッ…礼を言う。しかしな…さっきお前が言った『死んだらみんな仏様なんだからもう悪口言ったら駄目だぞ』ってやっぱ仏典に書かれてる教訓とかなのか?」
「まさかぁ! あの仇討ちのボウズにはわからなかったけど旧世紀の中世ヤープトでエ口小説家から尼僧に転職したババアが法話だとか抜かしてほざいたたわ言のパロディです」
「んなろぉテメェ…。さっき礼を言ったのは完全ナシだ。帰隊したら泣くまでボコる。あと今週『テメーだけ』夕食抜きだ。返事ィィ!!」
「はい!!」
内務班なり中隊単位なりで「連帯責任だな」と言わずにわざわざ「テメーだけ」(←こいつが重要だよ♪)と明言したのは中隊長が立場的に行政上の難しいナニとかはともかくこの時の俺の機転に本気で感謝していたからだと思う。実際俺は仏典からの引用だとかテキトーな「放便」は用いず
「ババアのたわ言のパロディ」
と正直に話したからな♪ いい仕事をした後は自分自身も本当に気持ちいいもんだ。
報告書6 『棺』 完
次回予告
人って嫌な生き物だ。「おめでとう」よりも「ざまあ見ろ」の方が遥かに興奮してしかも爽快だろ?平時でも戦時でもな。俺もそうさね。ムカつく敵が何十人単位だかで吹っ飛んだり黒焦げになったりしてそれでも不運な奴がまだ死ねずに散々苦しんでるトコ見たら最高に酒と飯が旨いわな!
でもな、馬鹿な俺でも敵と味方の、懲らしめてやる奴と守るべき愛する者の区別くらいはつく。愛する者の身に起きた不幸に「お気の毒」と感じたりお悔やみを言う位の知能はあるんだ。そこん所ヨロシク!!
次回 報告書7 『生かせ、いのち』
俺が言うと、偽善だ。
(C)伊澤屋/伊澤 忍 2671
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