伊澤屋

歴史・政治経済系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

独裁少女サヨ子ちゃん 議案8 『赤と黒』

2019年06月26日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案8 『赤と黒』



 4月25日の市長初当選から1四半期、3か月が経った。 気付けばもう7月も終わりではないか。

月一くらいでザ・反社!な裏金専門の金庫番と会う。 政活費、政調費といった類の政治資金系や市長交際費のような合法的な金の出し入れは党なり市なりでできるから良いが違法、特に反社会的な金の出し入れにはどうしてもその道の専門家が必要となる。 党中央と都連に推薦され最適任者として私が選任したのは顔も声も性格も超気持ち悪い目の前のこいつ。

通り名は 「スカスカ社長」「炭水王」。

これら通り名のいわれは後から話す。
民本党政権で平成22年から23年まで1年強内閣総理大臣を務めた伊達直人の党派活動・ゲバ棒戦士時代の後輩で日本ユニメコ協会に毎年多額の寄付をする等意識の高い経営者として業界では通る。


「市長のその目で真っ直ぐ見据えられると、何か凄く怖いんですよ」
「私の目が青いから?」

「そうじゃないんです。 それ言ったらレイシスト認定されて業界から永久に排除されちゃいますから。 いやね、私がどこかでヘマ打ったりしていつか絶対見捨てられるんじゃないかと」
「信用されてないのね…。 この世界非合法な仕事だからこそ逆に互いの信用は絶対に必要よ。 『氷の瞳とドライアイスの心』 はそもそも敵が付けた仇名なんだし私をもっと信用なさい」

「滅相も無い! 勿論私は市長を全面的に信用しておりますよ!! 私のこれまでの仕事で得られたノウハウは全部市長の為に使わせてもらいます」


ゲバ棒抱えていた頃からセコい事以外何もしてないお前の持ってるノウハウって一体何だ?
こいつの通り名の 「スカスカ社長」 とは、私が生まれる前の平成21年に起き流行語大賞にもノミネートされた消費者被害の 「スカスカおせち」 事件と、会社を畳みすぐに別個に再開しその1四半期後の桜の季節に性懲りも無くまた起こした 「スカスカ花見弁当」 事件による。

普通に言って社会の屑だが、こいつは立ち位置的に貴重な存在だった。 福祉予算、国際友好予算の増大で教育費特に学校給食関連の予算が年々大幅に削られ大改革を迫られる中こいつの会社の冷凍食品が三鷹市で圧倒的な占有率を誇っており隣接自治体の武蔵野市、小金井市でも然り。しかもそこは先輩の伊達直人の選挙区たる衆議院東京18区だから何をかいわんやだ。

更に、やはり隣接自治体の杉並区でも革新リベラル系の区長の田中麗の肝入りで(もうほぼ当確な)受注獲得に動いているというのだから恐れ入る。

こいつの所の製品。 冷凍で炒飯でも餃子でもピザでも牛丼でも品揃えはまあ豊富だがとにかく

「高い」 「不味い」 「体に悪い」

ものの見事にこの三拍子だ。 犯罪だ。
1980年代英国で英国病治療の為断行されたサッチャリズムでも行政改革、コストダウンの一環として学校給食への冷食始めインスタント食品の積極利用は行われたが 「高い」 が加わりもはや完全に大義が無い。 保護者の支払う給食費の引き上げも続き各家庭の家計を更に追い詰める。
そもそも三鷹市は、特に私が通ったさくら小は給食が美味しい事で全国的に有名だったのだ。
塩焼きそばと揚げパンは定評があった。 店頭売りの無いヨーグルトはその美味がもはや神話だ。

それをこいつは一人で完全にブチ壊した。

具材をケチって米系、小麦系の分量だけが過多なのを異常な程大量の調味料で誤魔化しているのでとにかく炭水化物過剰、塩分香辛料過剰で平日毎日喰うだけで健康破壊一直線の刑罰レベルだ。
こいつのもう一つの通り名の 「炭水王」 はここから来ている。
「冷食王」 「美食王」 と後世の歴史家から絶賛されたいという気持ちは微塵も感じられない。

なので移民のイスラム教徒やユダヤ教徒の児童向けの無料のハラール、コーシャ給食を食べたいと

「お願いだから改宗させて下さい!!」

と中東・アフリカ各国の大使館に必死になり問い合わせる日本人児童、保護者が続出し大使館側で

「大使館でイスラム教、ユダヤ教への改宗、入信の手続きや儀礼等は行っておりません」

と新聞広告や公式SNSで伝えるまでの事態となった。
もう既に健康被害が表面化しており立進党市政でなかったらとうに報道が連日伝えているだろう。


「近いうちに社長の会社のごはんを私も食べてみたいわね ♪」
「…市長も、 相当な命知らずでいらっしゃる。 すぐ傍で救急が待機するなら喜んで」

画像

噴飯だ。



「加戸尾。 来週府中まで行くのにキャデラックと運転手を用意して」
「御意」


今月はもう一つ懸案があるのだ。 日侠組のデブ議長が警大を卒業して地元に帰ってくる。
 
私の当選よりも前に国家公務員総合職採用者待遇で4月きっかりに警察大学校の初任幹部科に入校させておいたのだ。 だが現役の暴力団組長をいきなり警視正の階級で採用させしかも額面よりも更に二階級上の警視監の給料を払わせるとは私も随分なやり方をするが、その時点ではまだ一介の党職員だった私のこの案を通した立進党も立進党だ。

卒業式の来賓で私だけが呼ばれると流石に通常の試験採用の学生達に非常に強い違和感を与える為カモフラージュに府中市の近隣自治体の立進党や移民党系の首長も何人か招待された。


「♪ああ伝統を、受け渡す…」


校歌にある伝統は今死んだ。 その伝統は悪魔若しくは死神に受け渡されここにはもう無い。
卒業生総代、課程学生長として学校長の前で祝辞を読み上げるデブ議長の声は自身に満ち溢れてはいるがしかしどこまでも反社会的な響きを持ち憚らない。


「とても立派な祝辞だったわ…。 それに、ちょっと痩せたんじゃない?」
「いやぁ~、♪ 組に入って直ぐの部屋住み修行以来のきつさでしたよ! もうやれませんねェ」

「よく言う! 一般採用のキャリアは勿論教官まで召使いにして何不自由無い毎日だったくせに!」
「あ~、それを言っちゃあおしめえよぉ。 もう、お嬢には敵わないなァ。 でもきつかった!」

「ま、20何年ぶりの勉強と運動の毎日で大変だったのは認めるわ。 私の下で働く為のね ♪」
「そう! だから早寝早起きも汗だくの柔剣道もお嬢の為に全然平気だったんでさぁ ♪」


通り名は 「デブ議長」。 いかにも都合の良い時だけ調子の良さそうな屑男だが、実はこいつは日本の任侠史上かなりエポックメイキングな奴なのだ。 とにかくアイデアマンで先見の明があり


「馬鹿野郎!! ウチは大卒しか入れねぇ!!」


以上は十数年前の流行語大賞にも選ばれた。 フル規格の暴力団で盃に 「学歴制限」 を設けたのは奴が、日侠組が全国初だ。 国政レベルで保守政治の長期化、自分達が生きる渡世の先細り傾向を誰よりも早く感じ取り衰退を防ぎつつ必死に黄金時代の再来を待ったその眼、胆力は買いだ。


「でも何で 『日本任侠道本庁』 なんて役所みたいな名前なの?」
「それはですね。 役所の様な名前だともう絶対従わないといけないと誤認してお金をすんなりと払ってもらえるからです ♪」

「じゃあ後半の 『さくら組』 は何で 『さくら組』 なの? 役所の次は幼稚園みたいだし」
「先々代の初代が、地元でしてね。 先々代御自身もそうだったんですがさくら小とさくら中のOB、OGを中心に組を立ち上げたからでさあ ♪ 硬軟織り交ぜての先々代渾身の命名ですよ」

「…聞くんじゃなかった」
「お嬢、そう仰らないで下さいよ。 みんなお嬢が大好きなんですから」

「ま…内心の自由は決して奪えないし私を好きでも嫌いでも構わないわ。 議長には来月には新編する三鷹青年警察署の、M.Y.P.S.の初代署長をやってもらうんだし仕事上の信頼関係は絶対持てるようにするわ。 その点は心配要らないから」


そうか。 これからはこいつの通り名は 「デブ議長」 じゃなくて 「デブ署長」 なのか。
情報を更新しておかないといけないな。


「そうでさあ! M.Y.P.S. う~~ん、いい名前ですわな。 『ムカつくヤツはパクってシバく』 私や子分の流儀にぴったりでさぁな。 お嬢の為に絶対いい仕事をしますよ!!」

「いい心掛けね。 額面上は警視正で所属長の大規模署長配置だけど権限上2階級上の警視監待遇だからもうこれ以上偉くできないわ。 これより上だと警視総監と警察大臣しかいないもんね」
「いえいえ、 私はお嬢の為なら一番下の巡査で出入りの敵に撃たれて死んだって構いませんわ」


「ああ、取材の真生です。 議長、警大卒業に当って何かお言葉を… ってお嬢。 すみません、お話し中でしたか。 では私の取材は後程」
「いや、もう話は終わったからいいわ。 真生さん、議長を目一杯男前に撮ってあげて。 ♪」



ヤクザとパパラッチの臭いが混じってもう今にも吐きそうなくらい最悪よ! 今日は速攻撤収!!

しかし、私自身が選んだとはいえ反日、赤旗の赤と任侠、黒社会の黒のコンポはとにかくつらい。

                            議案8 『赤と黒』 完     


次回予告

「僧侶と政治家は年を取れば取るほど値打ちが上がる」 誰? 今この場で本気でしばかれたいの? 意味も無く只古くなっただけなら産廃よ。 いや、それは産廃に大変失礼ね。 再利用すらできない癌よ。 「先生」 と呼ばれる職業には…ありがちな事だけど政界はそれがつらすぎる。
だがここでちょっと待った。 無駄に年を取っただけじゃない、敵として相応なしかし面倒な奴が現れた!


次回 議案9 『独裁者対熟練工!』

できるものなら、 出会いたくなかった。 でも出会ってしまった…。  とても、 つらい。

From now I want to it leave to Judgement of huture historans.

真実を直視せよ。


(え・伊澤 忍)



                               ©小林拓己/伊澤忍 2679

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独裁少女サヨ子ちゃん 議案7 『八年前』

2019年06月19日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案7 『八年前』



「ふぅ………。 帯刀証明とコンシールドガンの案件は今月分あと2件をやれば終わりですね」
「もう6時だから切りの良い所までしたら上がるわ。 加戸尾、終わったらお茶を入れなさい」

「御意」


人権擁護団体や移民自治組織の武器所有を最終決済し私達二人はその日の仕事を終えた。


「市長、どうぞ」
「もう仕事終わったんだからその『市長』って呼び方止めてよ。あと敬語も」

「ああごめん、理辺さん…」
「だから! じゃなくって、サヨ子って呼んで♡」

「ふぅ……… 早く法務省に戻りたいよ。 つらい」
「もう少し我慢なさい」


カップの中の紅茶を半分ほど飲んだ所で、 こいつを副市長に任命した時から見せたかったのだが本棚からさほど古くないアルバムを引っ張り出し持ってソファーに戻った。


「一緒に見なさいよ」
「…卒業アルバム? いや待てよ僕達は四修で中学行ったから小学校の卒業アルバムっていうのは無いんだよな」


頁を開け、昔ながらのフィルムの中に挿し込まれたプリントを見せ指差す。


「これ、覚えてる? 私達の一番、幸せだった頃…」
「? これは…学校の裏山だっけ。 サヨ子ちゃんが水色の縞のお洋服なのはさくら小の3年の時かな。 こっちは『花畑と左』の読者ハガキの懸賞のTシャツかな。 随分前だ」

「そう。これは横浜からこっちに引っ越してくる前の小学校の制服だから…。 うん。転入して暫くの頃ね。 『花畑と左』のTシャツは平成31年、いや夏だからもう改元された後で令和元年かな。 夏休みに私の家でお泊り会したの。 楽しかった。 もう8年も経つのね」
「鳥と帆立とごぼうの炊き込みご飯作った。 凄く上手く出来た。 美味しかったの覚えてる」

「でもその後に加戸尾くんは、私の尊厳を土足で踏み躙ったわ。 許すけど絶対に忘れない」
「何? そんな事したかな?」


8年前。 令和元年即ち2019年の7月下旬だった。 両親、祖母と大人までもが絶賛する味に仕上がった炊き込みご飯を食べた。 その後も食後のお茶、デザート、お風呂…とお泊り会の主要な関門を一つずつクリアしていき最終関門だ。 「寝る」 だ。


「歯磨けよ!」
「だからお父さんッ…! さっきお風呂で 『皮剥いて洗えよ!』 もそうだったけど何でそんな事言うの? 失礼だって分からないの!?」

「流儀だ♪」
「僕も、おじさんに言われなかったら歯磨くの完全に忘れていたよ♬」

「全く…! 加戸尾くん。 今夜寝る所を案内するわ」
「広い家だと行き来するだけで大変だね」


私は迎撃態勢を固めていたのだ。


「ほら。 大人二人でも余裕で寝れる大判の夫婦布団出したの。 今夜はこれで寝るの♡」
「…おじさんのお布団が無いみたいなんだけど」

「ウチのお父さん犯罪レベルにイビキがうるさいから一番遠い防音仕様の寝室よ。 規則なの」
「それだと僕は、サヨ子ちゃんじゃなくておじさんの隣で寝る方がいいな♬」

「??? …なっ!!」
「ウチのお父さんもめちゃくちゃイビキが凄くてね。 体質的に夜静かだと寝られないんだ」


私はこの男に、加戸尾に精神的に敗北した。


「なあ… 加戸尾君、もう寝たか」
「いや、 まだです」

「ウチの娘は、サヨ子は内心嫌いか? やっぱガイジンで青い目って気持ち悪いか?」
「それは全然ありません。 寧ろサヨ子ちゃんの事は大好きです。 でも…大好きなのを通り越して 『愛してる』 まで行ったら僕は勉強も運動も全然手が付かなくなって絶対破滅します。 自分で分かるんです」

「正解だ」
「サヨ子ちゃんのあの目は…あの瞳はドライアイスの瞳です。敵を凍らせて粉々に砕く目です」

「もっと正解だ。  おやすみ」
「おやすみなさい」




「………という経緯よ。 凄い悔しかった」
「思い出した。 悔しかったってあれは僕との、敵との勝負だった訳だ」

「そうよ。 私の初めての黒星だった」
「でも、寝る前におやすみのチューはちゃんとしたじゃん。 この記憶は正しい」

「…そうね。 加戸尾くんがちゃんと歯磨いた後で良かったわ」
「違いない♪」

「でも、それから後こばとちゃんの家にお泊りした時は一緒に寝たんでしょ? 知ってるし」
「ああ。 でもこばとちゃんの家はサヨ子ちゃんの家よりずっと狭いし流れ的に仕方なかった。 それにロココ調の柄の豪華な夫婦布団なんかじゃなくて一人用の綿が超目減りしてぺったんこの煎餅布団で狭いの我慢して寝たよ。 おかげで朝になったら二人して寝違えて筋肉痛になった」

「サラッと凄い事言うのね。 さり気無く人をスペックで序列付けして平気で差別してるし」
「そうかな? こばとちゃんは今標準学年で高2だけど…人は生まれた瞬間平等じゃなくなるってサヨ子ちゃんが一番身を以て示してると僕は思うんだけどね♪」

「死ね」
「それ、最上級の愛の言葉と受け取っておくよ」

                                議案7 『八年前』 完


次回予告

国語の資料集の端っこの下らない蘊蓄をまだ覚えていたの? フランス文学の文脈で赤と黒といえば軍人の栄光、軍服のパンタロンルージュの赤とカトリック司祭の僧衣の漆黒で両者の野望の象徴の色と? 笑わせないで。
今この街で 「赤と黒」 とは反日派とヤクザ以外の何物でもないわ。 この結果を選んだのは民意に他ならないのだもの。 後悔なさい。


次回 議案8 『赤と黒』

このおぞましさを、我慢できないと言うのならこの場より去れ。

From now I want to it leave to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679
 

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独裁少女サヨ子ちゃん 議案6 『厄介な部下』

2019年06月12日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案6 『厄介な部下』



「加戸尾!! これは一体どういう事なのッ!? 暴走族と舊車會1団体ずつ、それに白賊と緑賊まで今四半期を最後に助成金打ち切り? 誰がこんな指示を出したというの!?」
「? 市長の出された指示通りに各案件処理する様に関係各部署には伝えておきましたが。 ♪ ボンネットに旭日旗を塗装したヘイト行為と色賊の二つはそれぞれ欧米系、イスラム教徒以外は加入を許さない多様性尊重義務違反とレイシズムに関する国際基準抵触の為です」


いつもの事、だが。 今回もだった。

加戸尾は命令を聞かない。
正確には、誰よりも私の命令を忠実に守る形を取りそれでいて意図した事とは正反対の事を行い私の意志を実質全く実行に移さず出力する。


「だから………! その義務を負うのはあくまで日本人だけで移民に適用するのは逆に差別行為に当たるの! ちゃんと制度の趣旨を理解しないままで処理しないで! もうッ! 解った?」
「ん~~っと、 それなんですが走り屋さん達は殆ど日本人でして色賊については幹部級のうち斬り込み班長や集会係長に移民二世でもう既に日本人になっているのも…」

「もういいッ! もういいッッ!! 当該全団体みんな助成打ち切りは不可! 支給継続で決定!!」
「御意」


結局、走り屋関係は旭日旗や日章旗や菊花紋章よりも星条旗やユニオンジャックのような欧米風の意匠の塗装を推奨し色賊には主流以外の人種民族や信仰(※流石に緑賊に別宗教でも多神教徒は押し付けられなかった為同じ 『啓典の民』 たるキリスト教徒やユダヤ教徒を名義のみでも少数加入させるので納得させた)のメンバーも加わらせる事を新たに決めた。
とにかく面倒極まりなかった。

一事が万事この調子だ。 加戸尾が全く以って私が求めているのと正反対の決定を各部に伝えてその度に私がそれをオーバーライドする形で 「それは全然間違い! 本当の命令はこっち!」 と改めて伝え直す案件が何と多い事か。 でも私はこの男が居るのを必要とした。

何せこの男、加戸尾が幾ら命令を聞かない奴でもこいつが私の命令を一割か二割だけでも聞けば市政は確実に回るのだ。 その意味で私の政治生命には欠かせない存在なのだ。

しかしこいつは私にとって一体何なのだ? 友人? 違う。 積極的に楽しみ、安らぎをもたらしてくれる奴じゃない。 主従? それも違う。 前述の通り、コイツは私の命令を全然聞かない。 家族ぐるみのお付き合い? 完全にハズレではないがどこか違う。 私の両親や祖母ですら理想的な 「ご学友」 としてのコイツには価値を感じていたようだがどうも違う。
恋人?彼氏? 完全に違う。 私はコイツに恋心など0.1ピコキュリーだって抱いてはいない。  


「市長、コーヒーどうぞ。 はい」
「…加戸尾君は、ずっと変わらないね。 いつも缶コーヒーは私が赤缶で加戸尾君が青缶なの。 中学の頃くらいからかな」

「でしたかね…。 4年前だったでしょうか」
「それだと高校の頃よ。 中学だと6年前じゃん。 私達って歳と学年計算し辛くて面倒ね」

「違いない。 逆に市長以外の学校の友達の歳や学年がもう全然分からなくなりましたよ」


私と加戸尾は令和3年に市立さくら小を四修、つまりは10歳で卒業し同さくら中に入学。 1年で卒業し令和4年に11歳で都立市ヶ谷高に入学、同校を2年で卒業し東大入学は令和6年、13歳の時で2年後の令和8年に15歳で卒業…ってもうこの時点で計算できなくなりかけてきた。 …まあ、標準年齢より7年早く就職の年に達したと計算すれば良いのだ。 同い年で標準学年の級友たちは今年高2だ。 一説には国は人口減少時代の労働力確保より特権階層を作りたかったようだ。

以下、市職員たちの生の声だ。


「見ろよ。加戸尾副市長だ。 全く、17歳であの行政手腕は凄いよな。理辺市長にはあの人しか仕えられない」
「三鷹市でも15歳大卒は過去に市長と副市長のあの二人しかいない。 神様仏様もよくもまあ、あの二人を同じ地元に引き合わせたものだ」


「副市長、お蔭で助かりましたよ」
「…? いえ、自分は特別な事は何もしてはいませんよ。 ♪」

「特別な事はしていないって… 議会対策でも反社のアレにしても副市長がいなかったら私たち市職員は今頃確実に何十人か死んでいます。 本当にみんな感謝しています」
「市長はともかく自分についてはそれは、過大評価ですよ」

「私たち職員は… 市長と副市長をずっと誤解していました。 勉強だけはできる金髪の小娘、赤毛の小僧だなんて思っていましたがそれこそが思い上がりでした」


ふう… 会話をちょっと傍受しただけでも私はともかく加戸尾はとにかく断然人から好かれる、信頼される才能がある。 まあ当然だな。 

                              議案6 『厄介な部下』 完

次回予告

つまらない記憶に限って本当によく覚えている。 私も16歳で、この歳でこうも老いたのか。 小さい頃の大切な思い出…って恩着せがましくて偽善でくだらない。 最低。
大いに役立つ記憶ですらすっ、と忘れる事もあるのに何故くだらない記憶がこびり付いたヨゴレみたいに頑固に残るの!? いまいましい!!


次回 議案7 『八年前』

思い出に、価値は無い。

From now I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679

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独裁少女サヨ子ちゃん 議案5 『能力か忠誠か』

2019年06月05日 18時30分00秒 | Weblog

独裁少女サヨ子ちゃん


議案5 『能力か忠誠か』



「加戸尾。 ケータイならいいかげん私と同じハンドトーキーにすればいいのに何で今でも旧式の4Gスマホにしてるの? お金ならありそうなのに」
「…市長。 自分これでも結構現代化させましたが。 何せ去年までは4Gスマホどころかガラケ使っていたくらいですから。 折り畳みのガラケはとにかく凄い使い易かったですね~。 ♪」 

「全くッ! でも、法務省入るお受験の一昨年は外して去年に持ってくる辺りは抜かりないわね。♪ 突然の不具合で悲劇なんて絶対起こるし」  
「いかにも! 操作法に慣熟してなくて電源入れっ放しのままで試験中面接中ピリピリ鳴られてゲームオーバーはゴメンです」

「本当に、加戸尾君は加戸尾君らしいから…」

 

初出の単語だし説明しておこう。
「ハンドトーキー」
とは従来の一連のスマホ群に代わって登場した脳波操作を可能にした中国メーカー製の第7世代携帯電話の商品名でその圧倒的シェア故に半ば一般名詞化した呼称だ。
中国製なのに何故第二次大戦時ベストセラーとなったアメリカの小型無線機の愛称を冠したのかその背景は不明だ。 多少重くかさばるがそれを補い余りあるだけの良い働きをする。

こいつには非常に便利な、一方一部の人達には逆に非常に有り難くない機能が備わっていた。
思想調査ができるのだ。

一昔前のポンコツ未来予測みたいに下品な事を考えるとそれが音声や画像に出てしまう欠陥とか単純な性質上の問題ではない。 そこは「実行」と明確に考えないとされない安全装置がある。
各機種により多少差はあるが生産国の中国や大市場のアメリカにとって好ましくない思想を抱く人物の脳波だと起動しないのだ。
具体的に言ってしまうと日本人の場合反中派、強硬な改憲派、日本への愛情が過剰な人物の脳波だと起動しない。


「起動させてみなさいよ。 私の脳波コード一旦オフにして、と。 これもいい実験よ。 ♪」
「市長も厳しくていらっしゃる。 やってみます。  …って起動しました」

「流石ね。♪ それ終わったら、じゃあ 『院長回診』 行くわよ♪」
「院長回診…って、ああ、市長の 『大名行列』 ですね。 あのおぞましさ最優先の」


私は加戸尾と複数の政治任命の幹部、和彫や頬傷のSPを従え抜き打ちの庁内査閲に向かった。
某課で卓上を極めて清潔に整理整頓した若手の女性職員を見て自然にこう言ってみた。


「漢字度忘れしてしまったからスマホ貸して下さる? ガイジンはこれだからいけないわ ♪」


我ながら何と嫌味で当て付けな物の言い方なのか。 借りると予め想定した文字列を打った。


「た、ぶ、ん、か、き、ょ、う、せ、い。 変換。  じ、ょ、せ、ん。 変換。  ふぅ… ありがとう」


その女性職員は、翌日以降姿を見せる事は無かった。
次に向かったのは、極めて愚鈍そうな新人の男性職員。 書類を検査すればパソコン打ちの書類は誤字脱字と送り仮名の間違いのオンパレード、手書きの所は漢字のトメハネがやはり同様間違いだらけ。 末期症状の先の最終局面の状態だった。 私はそいつのいかにも知性に欠けた顔を見据え以下こう言った。


「いいこと? 初めての昇任試験は全力で当たるのよ。 貴方の上司達には私から命じて試験本番前には代休、休暇を最優先で使わせるように伝えておくわ」
「ももももも勿体無い御言葉を!! あぁああああぁありがとうございまっす!! うぇ~~ん!!」


知性の欠片も感じられない、しかし脅威とはなり得ない愚鈍な男は嬉しさでその場で泣き崩れた。


「加戸尾。 とにかく能力には欠けるけど忠誠心は篤いのとその逆はどちらを部下に使って?」
「能力も忠誠心もあるという選択肢は無しで、必ず市長のお示しになった中からで、ですか?」

「そうよ」
「どちらかというと前者ですね。 能力の無さは努力と学習と上司の力量で何とかなりますが、忠誠はどうにも御し難い部分があります」


「まあまあの答だけど…」
「やはり、市長のお考えだとこれでは及第点は与えられないと?」

「ま、その答でも及第点には一応達しているから安心して。 満点とは言えないけどね」


「院長回診」 を終え市長室に戻った私はちょっと休憩、とTVの電源を入れた。


「…社報道総局長だったタルエル容疑者を乗せたプライベートジェットはドイツとスイスの国境近くのアルプス山脈の山の尾根に墜落しましたが、遺体とブラックボックスの回収は未だに難航しており現地警察と消防は…」


「全く、嫌な時代だこと」

                             議案5 『能力か忠誠か』 完

次回予告

無能で厄介な奴は徹底してしばいて潰してやればいいから実はそれほど厄介じゃないのよ。 
有能で厄介な手合いが実は一番嫌なの。一旦敵に回すと被害が大き過ぎるわけ。
一度も人の上に立った事が無い一生下っ端生活の莫迦にはこの苦労は解からないだろうけど一応言っておくわ。 全く不愉快極まりない!


次回 議案6 『厄介な部下』

厄介な物を、抱え込んでしまった。

From now I want to leave it to Judgement of future historians.

真実を直視せよ。



                            ©小林 拓己/伊澤 忍  2679

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