昭和40年頃、私は松下幸之助さんのダム式経営についての講演を聞く機会がありました。ダムを作って常に一定の水量があるような余裕のある経営をやるべきだということを話されました。すると一人の人が私もダム式経営に感銘を受ける。しかし今、余裕がないのにどうすればいいのかそれを教えて欲しいと質問をしました。
松下さんは、そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけれども余裕がなけりゃいかんと思わないといけませんなと答えられました。そうすると全然答えになっていないと、みんなが失笑するのです。しかし私は強烈な印象を受けたのです。
つまり松下さんは「まず思わなかったらそうはならない」ということを言われたのです。理想に対してそうは思うが現実にには難しいという気持ちが心の中にあっては、物事の成就が妨げられると言われたのです。
稲盛和夫