「そうだろう、いいかい、お前が思ったその通りになったのだ。
人間はね、自分の思った通りになるものなのだ。
この前あの犬が足を切られた時、犬はどうした。切られた箇所をひたすら舐めながら必死に逃げて行った、理屈抜きに傷口を舐めて舐めて治る事を信じて、ただ舐め続けておった。
ところがお前はどうだ。何を考えていた。私が変わりに言ってやろうか 。いいかい、お前はとっさにこう考えたのだろう。
こんな野良犬の血のついたままの小刀で切られた。
あいにくここは亜熱帯性気候だ。湿度も高くおまけに不衛生な環境だ。消毒も薬も包帯もない。
これでは傷口から破傷風菌が入って、外毒素のために中枢神経が侵された。間違いなく破傷風になると思っただろう。
はい、思わず頷いた。しばらく置いてもう一度、はいその通りですと言って神妙に頭を下げた」
中村天風