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愛を口移しで飲ませるかのように、情熱的なキスが、鷹司から与えられる。「君が無事でよかった。愛しているよ」鷹司の言葉に、桜庭は眸をあけ、彼を凝視(みつ)めずにはいられなかった。失ったはずの愛がまだ鷹司の裡に輝いているのが、視えた。「…わたしを、赦してくださるのですか?」「赦すよ。君への愛情が、わたしを寛容な男にする」下肢の切なさと戦いながら、桜庭はどうしても聞かずにはいられなかった。「もう、わたしは、あなたに愛されるのには値しません。あなたは最初の男ではありませんでしたし、あなたを愛していると判っても、別の男に抱かれれば感じてしまう…。身体には疵が残りましたし、いまも約束を守れませんでした」「わたしを愛していると認めたな?」鷹司は、自分にとって大切な言葉だけを拾って、繰りかえした。「愛しているんだな?」素直に頷き、桜庭は認める。「…え、ええ…でも、わたしは、約束を守れませんでした」ゆっくりと桜庭が高まってくるように、鷹司は上下にだけ動きながら、笑った。「構わないさ」鷹司はあっさりと言った。「守れるはずなどないと、判っていた」唖然と、桜庭は自分の内側を占領し、キスせんばかりに覗きこんでくる男を見た。「約束のために必死になっている君が、たまらなくいとおしかったよ」「非道い人……」眉根を寄せた桜庭に、鷹司はキスを浴びせる。「非道いのは君だ。いつも、わたしを苦しめる。だが、愛しているよ、君だけだ。わたしの最後の人――運命の恋人」「わたしには穢れた過去があるのに?」いつまでも、実父や聖職者たちの性の玩具であった過去が、桜庭の裡から消し去れない。「過去などどうでもいい。君が何人の男と愛しあってこようとも、わたしを最後の男にしてくれればそれでいいのだ。わたしを愛していると、言ってくれ」「ええ、わたしも………」桜庭は、甘く濡れた声で答える。「わたしも、あなたを愛しています。鷹司さん…」「名前を呼んでくれ、鷹司は、母の名字だ」任務のために、鷹司は四ノ宮から母方の姓に移り、桜庭もまた新しい姓を得たのだ。「あなたを愛しています。貴誉彦さん…」鷹司の腰が深く入ってきて、桜庭はのけぞったが、自分からも突き返すように、身をくねらせて応えた。二つの肉体が、欲望の律動をはじめる。「わたしも、愛しているよ、那臣」桜庭は鷹司の首筋に抱きつき、自分にいっそう挿入させると、肉体の内で彼を深く味わった。「ああ…あなたを感じる……」