ヤン・ウェンリーは自身もいやいや軍人だったのでユリアンを軍人にはしたくなかったが、本人の軍人志望を尊重して公私共に軍人教育を施した。ヤンが戦略・戦術、シェーンコップが射撃・白兵戦技、ポプランとその相方のイワン・コーネフが空戦技術、フレデリカとキャゼルヌがデスクワークを担当した。ヤンとしてはユリアンの適性を確認したかったからだが、知らない人間が見れば後継者育成の英才教育だと思ったことだろう。
ジョン・ブラウン
声 - 岡本信彦
神父、エクソシスト。初登場時は19歳。オーストラリアのニューサウスウェールズ州出身。1月5日生まれ 山羊座 A型 身長162cm。
金髪碧眼で童顔、年齢に見合わない愛らしい容姿。典型的な英国系移民の家庭に生まれ育ち、ベネディクト派の修道会に所属している。京都弁を話す師父ソテロの多大なる影響を受け、日本語の学習過程で自身もまた珍妙な京都弁を身につけてしまった。標準語に近づけようとしているが、「ますです」などの誤用で周囲の笑いを誘っている。善良で優しく、誰からも憎まれない性格。
エクソシストなので憑き物落としは得意だが、ぼーさんは"神父には違いないだろうが"と訝しんでいた。GHシリーズ唯一の作品『悪夢の棲む家』で猜疑心から広田に問われた際、世の神父はみな司祭であり自身は修道司祭で伝道の旅に出る時に司祭職を授かったこと、本来なら除霊や悪魔祓いは上の許可が必要だが事後承諾だと答えた。霊に対する時、いつも朗読しているのは新約聖書の『ヨハネによる福音書』。その時だけは、何故か標準語である。
旧版でぼーさんが"ジョンは司祭ではない"と否定していたのは作者のキリスト教の内部事情に対する誤解であることが判明した。そのため、完全版のぼーさんのセリフはぼかしが入り、『悪夢の棲む家』で正式に訂正された。
下巻
p.109~111
「ええと。……ボクは神父でんがな、です。」
「普通は、しませんですね。除霊ゆうのは、まぁ、悪魔祓いゆうことで、ほんまやったら上の許可がいるのんですけど。」
「こういうことは、急を要することが多いんで、いわゆる事後承諾、ゆうことになりますのんです。」
「ボクは若う見られるようですのんけど。けど、いちおう、ちゃんと司祭なんでおます。」
「いわゆる神父ゆうのは、普通は司祭でおますね。ボクは神父ゆうても、教会の神父やなしに、修道会の神父ですよって、伝道に出るときに司祭職をもろたんでおます。」
「そこに困ってるお人がいやはったら、できるだけのことをさせてもらうのんは、人の義務なんと違いますやろか。ホンマに除霊できるのんか、自分でもわからへんのですけど、ボクにできると思えることを、精いっぱいさせていただこ、と思てます。」
「このお家にいやはる霊は、悪いことをしてるわけとちがいますけど、死んでなお苦しみ続けることは、やっぱり神さまの望んではることではないと思てます。それに、翠さんもおかあさんも困っていやはるのんですやろ?お二人の心と身体の健康のことを考えても、やっぱり誰かがなんとかしてあげたほうが、ええのんに決まってます。……ボクはそう思てます」
黙って耳を傾けていたジョンが、首を傾げた。「仲間になる……ゆうのは、同化、なんとちゃいますやろか」「同化?」「はい。一体になる、ゆうことで。せやから、同じような立場の人や、同じようなことを考えている人を欲しがる、ゆう気がするんです。例えば自殺しはったお方の霊がいたとしますやろ?そうすると、自殺を考えるような人を呼ぶ……ゆうか」「ああ――寂しくて仲間が欲しいから、自分と同じように自殺しそうな人を呼ぶわけだ」「はい。もっと悪辣やと、そこに追い込んでいく」……うーん。分かるような、分からないような。救いを求めてナルを見たら、ナルは溜息をついた。「そうそう簡単に霊のことが分かったら苦労はない」そりゃ、そうでしょうが。「ただ、霊として残る要件は強い思いだ。霊とは基本的に残存した強い意思――思念だ、と看做すことができる。この家の場合は、仲間が欲しいという欲求がそれだろう。なぜ同世代の仲間に限られているのかは分からないが。とにかく、それは仲間を求める。欲しいという欲求のみの存在なのだと言うべきなんだろうな」ナルは言って、部屋の隅に凝(こご)った闇を注視する。「仲間を求めるのは、それがそういう存在だからだ。求めた結果、仲間が増える。増えた存在は大本の存在と同化する。少なくともこの家の場合、子供たちは集団で一個の霊存在を形成している。互いに互いを引き寄せてエネルギーを補い合う関係にあるから、個々は決して強い存在ではないのに、除霊しても弾き飛ばされるだけで消えない。引き寄せられて戻ってくる」「ああ、なるほど」「ただ、同化するためにはそれが均質なものである必要がある、ということなんだろう。少なくとも似通っている必要がある。たとえば、寂しい子供の霊が仲間を欲した場合、同じく仲間が欲しい子供が死亡するか、同じく寂しい子供が死亡する必要があるのだと思う。前者の場合は『仲間が欲しい』という欲求が一致しており、後者の場合は『寂しい』という心性が一致している。最低でもどちらかが一致していることで初めて、両者は同化することができる」「でも、ミニーはすでにいっぱい仲間を持ってるじゃない。とっくに満足してそうなもんなのに」「そうだろうか?たとえば仲間の欲しい霊が、新しく仲間の欲しい子供を得たとする。その両者が同化する――だが、仲間とは連帯する『他者』のことだろう。同化したら他者じゃない」「あ、そうか」「仲間を得たところで、新入りが望んでいるのは仲間だ。同じく仲間を欲している。両者の思いが同化したところで、欲望が強化されるだけだろう。寂しい子供の場合は、同じく寂しさが積み重なるだけで満たされるわけではない。つまり、同じものが積み重なっても、加算されこそすれ減じることはないんだ。だからいつまでも仲間を求め続ける」……そっか。欲しいという思いだけがどんどん強くなるんだ。「だから、礼美ちゃんを孤立させようとしてるわけね?心性を一致させて、できれば欲求を一致させるために」「だろう。しかも礼美ちゃんは、そもそも連中の心性に対して親和性があるんだ。引っ越して友達と別れ、新しい友達ができずに寂しかった。ある意味、親和性はキーポイントだろう。大沼さんの孫も一人遊びが多かったと言っていた。大人は病人の介護で忙しく、充分に構ってもらえない。大沼家の末娘もそうかもしれない。身体が弱くて、兄弟や友達と均質でいられない。その孤立感をきっかけにして、犠牲者にぶら下がる」……取り込まれる、ってことだ。どんなに人間関係に恵まれた子供でも、ふっと孤立感を感じる瞬間があるだろう。それをきっかけに連中は目をつける。目をつけたら、目的を完遂するまで諦めない。
第2巻
第6話 幻視(ヴィジョン)と魔法(ルーン)
シルフィン:夢を見たのね、もしかしたらメリロット姫は夢中歩行をしてしまったかも…。
シェンドラ:夢中歩行?
シルフィン:幼い子には時々あるんです。眠りながら歩いてしまう、半覚醒状態で夢と現実の境界があいまいになり…まるで。
シェンドラ:覚醒自の如くに動いてしまう…というの?
シルフィン:はい。
ロビン:そういえば。両親が去った後、チビ長も…。
シェンドラ:え!?
ロビン:いえ。僕の知っている子も何度かやってしまいました。その子は…両親を失ったばかりで普段は笑顔しか見せないんですが…夢の中で何度も二人を探して泣いてました。
お父さまとお母さま達がいないんだ。早く見つけないと、ロビン。
僕が側にいるから、チビ長、ずっと側にいるよ。
姫君も……夢で見た蝶を探して、どこかに迷い込んでおられるのかも知れません。
シルフィンの言う“夢中歩行”とは、要するに夢遊病のことである。正式名称は別にあるようだが、定義は以前と大分変わってきているらしい。
スニーカー文庫
『機動戦士ガンダム00 セカンドシーズン4アニュー・リターン』
著:木村暢/原作:矢立肇&富野由悠季
「第2章-2」
p.109
後方から接近する敵の総数は十四。ケルディムガンダムとアーチャーアリオスで迎撃を――スメラギからの指示が届いたとき、紅色のパイロットスーツに身を包んだソーマ・ピーリスは、GNアーチャーのコクピットに座り、体の前で指を組み、静かに両のまぶたを閉じていた。彼女は沙慈と同じように人を探している。だが、その目的は真逆であった。彼女が探しているのは――アロウズの元同僚。同じチームで行動したことさえある。そして、彼女の敬愛していたセルゲイ・スミルノフ大佐を殺した男だ。体の前で組んでいた指に力を入れると、グローブがわずかに軋みを立てた。すでにピーリスは、最初に出てきた十二機の中に目的の機体がないことを確認している。これは彼女に比べて沙慈の稚拙さを意味するものではなく、まずピーリスの方が戦闘経験が豊富であること、また彼女自身が戦うために造り上げられた超兵であること、そして敵陣に突入していったダブルオーライザーと違って、アーチャーアリオスの位置が戦闘宙域からやや離れたところにあり、全体を遠方から眺められたことに起因している。嵐の中に飛び込んでいくよりも、嵐の外側から眺めていた方が、その全体像が把握しやすいものだ。だが、彼女は我慢の限界に近づいていた。凶暴な怒気が、そのはけ口を求めている。
「第4章-3」
p.306
アンドレイは離れていく二人を交互に見やり、一瞬の逡巡の後に廊下を出て武人のあとを追った。ブシドーの背中へと話しかける。
「私も同行させてください。グッドマン准将の許可は取ります」
「好きにすればいい」
ブシドーは、振り返る半歩手前といった感じでアンドレイに横顔を見せた。
「私と准尉の機体についてこれるとは思えんがな」
その言葉がアンドレイのプライドを刺激しないではなかったが、彼は自分の実力を承知していたし、不愉快さを飲み込む術も知っていたため、それを表に出すことはなかった。何と言われてもいい。いまはルイスと離れるべきではない。彼はそう思ったのだ。
鶴代は、金田一耕助にして“明敏なる頭脳”と称賛された女性。
没年齢:数え年17歳(満16歳)。
昭和5年某月某日 生誕
昭和21年10月15日 没
身の回りで起こっていることや気になったことを療養所の次兄に書き送っている内に、点と点を繋ぎ一本の線となった事件の真相に辿り着いた。その悲しみは鶴代の心の臓を断ち切ってしまう。
「9 くちづけ(Ⅱ)」
あの方には、いつも不思議な雰囲気があって、お側にいると家に帰ったような気がする。それは寛げるとか、緊張がなごむとかそういった感じとも違っている。そんなにたくさん逢ったわけではないのだが、たとえれば毎年の大祭の後にお許しを頂いて久しぶりに家に帰ると、最初は違和感があるのだが、少しずつそれが薄らぎ休暇の終わりには離れがたく思える。そんな郷愁のような気持ち。お逢いした最初はただドキドキするのだがしばらく庭園を散策しポツリポツリとおしゃべりしているとお別れする頃には屈託なく笑っていられる。
集英社コバルト文庫
金蓮花
『水の都の物語 前編』
「2 出逢い」
カイエンは地面に滅びた過去の王国の文字をゆっくりと指で書いた。
――――――厦維燕
サヒャンは意味などわからぬ文字の、その並びの美しさに我知らず目を奪われていた。それに目を細めカイエンは音楽的な声で言葉を続ける。「《厦》は家を表します。《維》はつなぐという意味で、《燕》は必ず帰ってくる鳥の名前でもあり、くつろぐという意味もあります。これが私という存在の本質です。今日から、あなたが私の《真珠》です。どうぞ、疎ましくお思いにならず、なにかあれば私を思いだしてください。必ずあなたのために私は尽力いたします」カイエンの百点満点の騎士ぶりに、生まれて初めて《真珠》となった乙女は……、落第点の答えを返すことしかできなかった。
角川文庫『本陣殺人事件』に収録されている〈金田一耕助〉シリーズの短編推理小説「黒猫亭事件」で金田一が彼の伝記作家でもある作者「横溝正史」の分身“S・Y”に宛てた手紙という形で執筆された事件。横溝正史曰く推理小説の3大トリック(「顔の無い屍体」「一人二役」「密室殺人」)の内、単なる“顔の無い屍体(死体損壊)”だけではつまらいので、それに“一人二役”をプラスした2つのトリックのコラボ。女性漫画家のJET女史(本名「門脇佳代」)により漫画化された横溝作品の1つ。
武蔵野の面影を残すも辺鄙なG町の“桃色(ピンク)迷路”とか“地獄横町”とも呼ばれる界隈の酒場「黒猫亭」のマダムのお繁(糸島繁子 / 本名「松田花子」)は、土建業「風間組」の親分である風間俊六(金田一の中学時代の友人)に囲われ一時的に充足した日々を得、恋に狂う。
思い詰めたお繁は風間の妻に成り上がろうと企み、嫁姑の争いの果てに姑の毒殺を図り間違って夫を殺した過去をネタに自身を食い物にする糸島大伍の殺害を計画した。まず、お繁は自身と日華ダンスホールのダンサー“桑野鮎子”という一人二役で周囲を欺くという遊びを糸島に持ちかけ、引き揚げ船で日本に戻る船上で糸島が引っ掛けた小野千代子を殺して彼女の遺体を身代わりに自身の死を偽装し、本命のターゲットである夫を殺害した。
いずれは共犯の日兆(日蓮宗系「蓮華院」の破戒僧)も始末するつもりだったが、彼女を我が物にしようとした日兆に土蔵に閉じ込められて逃走の機会を失い、風間に真相を知られたお繁は自身の心臓を撃ち抜いて自殺した。お繁を愛することのなかった風間だが、愛人の1人である大森の割烹旅館「松月」の女将のお節(松山節子)を愛しく想い、彼女を自身の居場所として大切にするようになる。