卯の花の 咲くとはなしに ある人を 恋や渡らむ 片思(かたもい)にして
首:どういう歌?
遠智:たとえ片思いでも愛し返されることがなくても恋することをやめることはできないという意味ですのよ。
首:悲しい歌なの?
遠智:いいえ。愛の不思議さをうたっているのですわ。想いは通じなくとも見ていてくださいます――いつも。
首:だれが?
遠智:恋は孤悲とも書くのです、人を愛して初めて人はみな独りなのだと気づくのですね。
史:(野に咲く百合のほのかに紅い少女の夢から醒めて、白く透明な高みに翔ぶのか)
[卯の花が咲くのか咲かぬのかわからないような――私を愛しているのかいないのかわからない、心を開いてくれない人に私は恋し続けるのでしょうか…]
古代幻想ロマン・シリーズ
葦の原幻想-あしのはらげんそう-
「孤悲歌」
遠智:(この道を行けば三輪へ帰れるはずだったのにもう何も見えなくなってしまった。私は――この道を引き返したところで、あの方を知らなかったころに戻れるわけではないのに……私の手を取りながら心の半分も見せてはくれない人に私はなぜ、こんなにもひかれるのか。母様、母様、私はだれに問えばいいのでしょう。)
『あさきゆめみし』
講談社漫画文庫
第2巻
忘れないで……離れていても、あなたの手はわたしにつながれているのよ。
第5巻
……忘れないで……離れても、あなたの手はわたしにつながれているのよ……忘れないで……いとしい、あなた……。
既に恋人同士のようなスイートな感じではなくて、完全に夫婦化している。篠塚は、慎悟に対して逃避と虐待を重ねた「城南一高」篇だが、辛うじて恋人時代と呼べるかもしれない。但し、この時も甘い空気は感じられなかった。篠塚が、自身の手を汚さず、安全圏に閉じ籠もり、イックやNo.7に慎悟を排除させようとする愚挙に血道をあげていたからだ。
エタンナ。彼が訪ねて来た者はここにはいないのだ、あなたは彼をいたく憐れんでいるようだが。しょせん旅する者に親しく情(なさけ)などかけると、過ぎ去った後、いらぬ寂しさを残すだけだ。
あなたは風をつかんでいられるか、夢をにぎりしめていられるか、あなたの追うものはそんなようなものだ。
メリンダ:その赤子…は殺して…しまいなさ…い。
男:はっ…しか…し男の子ですぞ、国王陛下の血を引く初めての男子です。
メリンダ:おだまりなさいっ。
ロビン:(何…だ、これ。)
メリンダ:ごらん。その女を、敵国の王妃です。この女の為に陛下は友を裏切りアルトディアスを亡ぼした。ほほほほほ、絶世の美女と詩人共がたたえた月の光の如き金の髪も色を失い老婆の如き灰白(はいしろ)じゃ。
ロビン:(この女性(ひと)は見たことがある…。)
メリンダ:夕闇の瞳も意思の力を失って今や廃墟のよう。
シェンドラ:あっ、あの子を止めないと。
ローラント:だめだよ、シェン、あの子が 隠れ里で普通の子として育つのが二人の願いだ。
シェンドラ:でも。
ローラント:いつか平和が根付き戦いの記憶が薄れたら、会いに行こう。
キリル・オギニアン:才能のあるお弟子さんだ、さすがはローラント王のご親族という感じですね。
ファラント:(え?)あれはロビンです。チビ長…ローラントとは違いますよ、チビ長とは兄弟みたいに育ちましたが血縁ではありません。
キリル:……。
ファラント:光(ルシリス)の騎士と陽(ソレス)の騎士が旅の途中で保護した子供の一人です。
キリル:ファラント殿。日々ローラント王とご一緒の貴方は気づかれませぬか?
ファラント:はぁ…。
キリル:あの赤茶の髪を薄茶にして、青い瞳を青灰色にしてみて下さい。
ファラント:キリル・オギニアン。
キリル:昔、出会った少年にそっくりです。アーサー王子の従者ウィレム……ローゼリィ姫が姿を変えてロリマーに潜入した時の姿。
キリル:ただの…他人の空似ならいいのですが。そうでないなら、これから先、あなた方が行く場所は彼にとってあまりに危険ですよ、ファラント殿。
第2巻
第6話 幻視(ヴィジョン)と魔法(ルーン)
シルフィン:夢を見たのね、もしかしたらメリロット姫は夢中歩行をしてしまったかも…。
シェンドラ:夢中歩行?
シルフィン:幼い子には時々あるんです。眠りながら歩いてしまう、半覚醒状態で夢と現実の境界があいまいになり…まるで。
シェンドラ:覚醒自の如くに動いてしまう…というの?
シルフィン:はい。
ロビン:そういえば。両親が去った後、チビ長も…。
シェンドラ:え!?
ロビン:いえ。僕の知っている子も何度かやってしまいました。その子は…両親を失ったばかりで普段は笑顔しか見せないんですが…夢の中で何度も二人を探して泣いてました。
お父さまとお母さま達がいないんだ。早く見つけないと、ロビン。
僕が側にいるから、チビ長、ずっと側にいるよ。
姫君も……夢で見た蝶を探して、どこかに迷い込んでおられるのかも知れません。
シルフィンの言う“夢中歩行”とは、要するに夢遊病のことである。正式名称は別にあるようだが、定義は以前と大分変わってきているらしい。
ロビン:チビ長……。(今なら解る…国王(あのひと)がどれだけチビ長を連れて来たかったか。風のよりし都アルトディアス……彼が望めば、この広大な国が手に入るだろう。冬の終わりの日射しのように人々は喜び慕うだろう、彼はそこにあるだけで太陽のように周囲の人々を幸せにする希有な存在だ。でも彼が望む未来は国王になることじゃない。)僕はチビ長の意思を守る!(チビ長の幸せは絶対守るよ。)