正宮(天帝の正妃)にも妾妃達との間にも1人の子も得られず後継に窮していた先の天帝、息子の許嫁を寝取った弟・祐(ユウ)を疎み不義の子を忌み嫌った先の竜王・敖祥(アオ・シアン)、許嫁を奪った憎い叔父とその妻である事を選んだ元・許嫁の白玲との愛の結晶であるカイを邪魔に思っていた広(コアン)、3者の利害が一致し天仙界の平和を守るという大義名分を掲げ“渡りに船”とばかりにカイを売り買いした罪人たちの内、生きて罪を償う事が可能なのは、自分も《黄龍》でありながら素知らぬ振りをしていた現竜王・広だけ!
但し、この白玲と先の竜王弟・祐との間に生を受けたというカイの出自の設定は、後からとってつけたモノであることは明白です。きっと、河惣益巳は当初、西王母・竜吉(ロンチー)と彼女の率いる敵対勢力によってカイを葬り去るつもりだったに違いない。竜吉に唆され、つけあがったリーアンの手で殺させようと河惣益巳は企んでいたと思われる。
河惣益巳の作品は殆どは血によって才能などが遺伝すると思い込んでいる彼女自身の勘違いが描かれている。が、『サラディナーサ』ではフェリペⅡ世が嘗ての愛人であるルイーサをレオンの妻であるにもかかわらず手籠にして生を受けたことにより主人公サラディナーサは一滴もフロンテーラの血を引いてはいないことは、妊娠を医師に告げられた時のレオン&ルイーサの悪夢を目の当たりにしたかのような表情から明白です。
なお、亡き富山敬さんが病に倒れたのは、本編の第3期でヤンの死を演じてまもなくでした。富山さんの死後、ヤンの遺志を継いでイゼルローン革命軍の総司令官に就任したヤンの養子ユリアン・ミンツ中尉(CV=佐々木望)がローエングラム王朝初代皇帝ラインハルト(CV=堀川りょう)と和平条約を締結し、ラインハルトの死をもって物語の終幕とした第4期(原作第9~10巻)が製作され、回想やユリアンの心の中のヤンが呼び掛けるシーンなどがあったけれど、当時は代役が見つからなかったため、ナレーションやユリアンのモノローグで処理されましたが、やはり不自然さは拭えませんでした。
ムライ退役中将(CV=青野武)が仕方なくロイエンタール元帥(CV=若本規夫)の使者としてイゼルローン要塞を訪れ、ロイエンタールに対する返事を答えた時のユリアンの台詞でさえナレーション(屋良有作)で処理したりもして、私は正直言ってスタッフの正気を疑いました。如何に、『銀河英雄伝説』の主人公はヤンとラインハルトの2人だからって、第4期の主人公とも言うべきユリアンを蔑ろにしています