・蚕Silkwormかいこ
カイコは、幼虫がつくる繭から絹糸をとるために人が飼育している昆虫で、野外には生息していないといわれています。養蚕(ようさん)の起源は、紀元前15世紀頃にすでに中国で始まり、絹織物は貴重品でした。紀元前後にシルクロードと呼ばれる各ルートが開かれています。日本で養蚕が始まったのは1~2世紀と言われます。
中国の古代文献である「魏志倭人伝」には、邪馬台国の女王卑弥呼が魏の皇帝に絹を献上したと書かれています。明治政府が1872年(明治5年)にフランス人技師を招き入れ、群馬県の富岡に日本初の器械製糸場の建設から始まっています。1893年(明治26年)に民間に 払い下げられ、化学繊維に押され昭和62年(1987年)に閉鎖しています。
21世紀になって、カイコが新たな可能性を持つ昆虫として注目しています。今から5千年以上も昔の中国でクワコという野生の虫を飼い慣らし、その後もずっと品種改良を重ねて作り上げたものです。成虫は、羽があっても退化し飛べず、幼虫は、ほとんど移動せず、人の世話でしか生きていけません。
蚕はカイコガの幼虫でチョウ・ガの昆虫の仲間になります。チョウと同じように約1ヶ月半の短い一生の間に、卵→幼虫→蛹(サナギ)→成虫(蛾)と、変態し、完全変態の昆虫です。
幼虫は、一齢から5齢へと4回脱皮をして成長します。脱皮をする直前には、餌を食べずにじっとして動かなくなり、眠っているようなので眠(みん)の状態といいます。
チョウとの違いは、繭(まゆ)をつくりその中でサナギになることです。
近年、1~3齢位までのカイコに人工飼料を与えられる傾向です。カイコの人工飼料は、「なぜカイコはクワの葉しか食べな いのか?」、「桑の葉を使わないでカイコを飼いたい」という思いからの開発でした。
人工飼料は脱脂大豆粉末、クワ葉粉末、糖、ビタミン類で大豆油で溶かしたβ-カロチン、塩化コリン、 イノシトールおよびL-アスコルビン酸、酸化防止剤のクエン酸、 抗生物質、防腐剤のプロピオン酸と固形剤などの添加から作られ農家での共同飼育における病気予防、労力の軽減に貢献しています。さらに人工飼料で一年中カイコを飼えるようになり、研究室などで様々な研究に使われているのです。
しかしながら人工飼料では生の桑の葉に含む酵素ウレアーゼが加熱により酵素の働きを失なわれています。大きくなったら生の桑葉を食べさせウレアーゼが、排泄する前にアンモニアを分解して再吸収により、絹糸タンパクのもとになるアミノ酸にかえます。
絹糸はフィブロインFibroin(不溶性繊維たんぱく質)と、にかわ質のセリシンSericin(水溶性たんぱく質)の2種類のタンパク質で構成で、セリシンがフィブロインを覆(おお)う形で存在します。やはり栄養不足では満足な絹糸に育ちません。
絹糸は切り口が三角形で光が通り、プリズムと同じ現象で、しなやかなフィブロインの束に、さらに無数のプリズムがあり、複雑に屈折が変化し光沢を生み出しています。
最近では絹タンパクの一つ、セリシンだけを繭糸として吐く品種を開発、さらに遺伝子組換えによる品種開発も進められています。
シルク新素材の開発です。絹糸を絹織物を作るためだけでなく、粉末や液体、スポンジに加工することで、食品、化粧品、医療用素材や電子部品の材料としての利用です。さらに遺伝子組換えカイコの利用で抗体、ワクチンなどの医薬品を、製造しています。
日本国内で約600種が知られ各々のカイコがつくる繭の色や模様も様々で、太い糸、細い糸などがあります。
利用の幅は広く、多くの可能性を秘め、日々研究が盛んに進められています。
遺伝子組み換えカイコで吐く糸は、大きなタンパク質の集まりです。これまでは、遺伝子組換えをした酵母などの微生物の利用で、インスリンや痛風の薬などの比較的小さい分子の医薬品が作られていました。しかし、酵母のような微生物で大きな分子の医薬品をつくることは難しいという現状もありました。これに対して、遺伝子組換えをしたカイコの利用により抗がん剤や血液凝固剤といった分子が大きく構造が複雑な医薬品の製造が可能になりました。
通常の医薬品の多くは、石油が原料であり、カイコであれば植物の桑が原料ということになり環境に負荷の少ない医薬品づくりということにもなります。今後は生態系に影響を与えない配慮で十分な管理体制が求められています。
絹にはフィブロインFibroin (タンパク質)に脳細胞の活性化、血中コレステロール、血糖値を下げる、吸脂性、肝機能を強化する成分を多く含むことより、糸くずなどをアミノ酸まで加工分解し顆粒・パウダーにして栄養補助食品、健康食品としても利用しています。セリシンには、抗酸化、紫外線吸収、保湿作用があります。
常食としては不向きと思われますので絹の衣服を着用することで、化粧品感覚で利用してみるのも体質改善に役立つかもしれません。
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