◎痛風の食事療法Diet therapy for gout つうふうのしょくじりょうほう
食料事情のよくなった1960年代からの痛風が急速に増加傾向を示しています。国民生活基礎調査(厚生労働省:性・年齢別にみた通院患者率)より40歳前後で30歳前後のおよそ3、4倍へと一気に跳ね上がります。日本人の推定60万人以上、男女比は、通院患者率で男性の85%、女性15%程度と圧倒的に男性に多くみられます。
痛風は、古くから知られる疾患で食生活が貧しかった戦中、戦後はほとんど見られなかったといいます。主な原因のひとつに高尿酸血症があります。原因のはっきりしない原発性のものは、長い間の食生活が影響しているといわれ、はっきりとした原因疾患がないのに尿酸の生産過剰、排泄機能が低下してしてくるものです。続発性といわれるものは、原因となる疾患があって尿酸が過剰に生産(激しい運動、白血病、悪性溶血性貧血、真性赤血球増加症など)されるもの、排泄低下(腎障害、糖尿病、大量飲酒)、薬剤により高尿酸血症を起こしています。続発性のものは、原因となる疾患の治療、薬剤を他のものに変えることによって対応します。尿酸の過剰な生成と排泄低下の両方ある場合もあります。
体内での尿酸の生成は、食事からのプリン体(レバー、オイルサーデンなど)の摂取による外因性と、体内で核酸代謝によるプリン塩基より生ずる内因性のもの、その混合型とに分けられます。たん白質、脂肪、炭水化物よりプリン体前駆物質のグルタミン酸、アスバラギン酸のアミノ基、グリシン、炭酸、蟻酸、アンモニアから合成されていますが前駆体を経ないで直接尿酸の合成が進むこともあります。体内の代謝異状によって高尿酸血症が発生しています。核酸(有機塩基)は、核たん白質となってたん白質と結合し細胞の核とし存在しています。複雑な化合物でありプリン誘導体、ピリミジン誘導体、正燐酸、五炭糖の4種の物質の混合物です。食品中の核たん白質が消化酵素によりたん白質と核酸に分解され核酸は、さらに分解され4種の塩基(プリン誘導体、ピリミジン誘導体、燐酸、五炭糖)に分解、プリン塩基には、動物性食品の旨み成分であるアデニン、グアニンを含みます。これらから分解しアデニンよりヒポキサンチン、グアニンからキサンチンを生じ、ヒポキサンチンからキサンチンを経て尿酸に変化していきます。プリン塩基類には、プリン核を含み総称しプリン体と呼ばれます。
最近では食事からのプリン体の摂取で血中の尿酸値の上昇がせいぜい1mg/dl程度で食事療法によって低下を試みてもプリン体の制限にはあまり意味がないとも言われます。プリン体は、体内で1日に700mg以上合成され食事中のプリン体を制限しても血中の尿酸の上昇が抑制されないといい薬物療法に頼る方が多い傾向です。
欧米に比較し高カロリー、高脂肪、高蛋白食でないわけですが、高度成長期に入り食生活が豊かになり痛風になる人が増加してきていることも確かです。食事療法、運動療法をおこなった上で薬物療法を進めて行くのが重要であると思います。体質的に肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症の人に多く発症し欧米型の食事形態でもあり、食事によって健康が維持されています。栄養バランスの取れた食事、常食をとることも食事療法です。ストレス、アルコールの多飲、水分不足も影響を与えます。食事は大切にしたいものです。
痛風は、主に血液中の尿酸が増加することによって引き起こされ風に当たっても痛むといいます。高尿酸血症が持続すると尿酸が尿酸塩の針状に結晶化し白血球が貪食(どんしょく:むさぼり食べること)し、乳酸を生じphが低下、尿酸の溶解度が低下、結晶化が促進されます。自覚症状とし多くが突然に急性の単関節炎(ひじ、指、耳)特に足の親指の根元に浮腫、激痛があり1週間以内に納まることが多いですが再発しやすく年数を得るに従いその頻度が増します。
痛風の80%で尿酸値8mg/dl(正常値:男性6mg/dl、女性5mg/dl)以上を表します。遺伝性、コルヒチン(痛風治療薬)の効果などによって慢性関節リウマチ、変形関節症などと区別できます。最近では、適切な治療によって予後良好といいます。慢性の痛風では、腎障害、高血圧、心疾患を合併していることが多く、長期の治療をすることに成り腎不全では透析をおこなうこともあります。結晶化したものが血管を詰まらせ、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞の原因にもなります。
バランスの取れた栄養状態を維持することから以前ほど厳しい食事制限はおこなわれなくなりましたが、肥満の人に多くみられ今までの食事の状況を見直すことで食事療法を進めていただければと思います。
食事療法の実際
適切なエネルギー、たん白質、脂質、ビタミン、ミネラルの栄養バランスの取れた食事とし暴飲暴食を避けます。過食により体内での尿酸の過剰生産、排泄が抑制されて痛風発作を起こしやすくしていることが大きな要因としてあげられています。理想的体重(標準体重=身長m×身長m×21[男性22])に近づけます。実際に痛風になる人の多くは、肥満傾向を示しており体重1kgあたり25~30kcalのエネルギー量とします。極端に体重を減量することも体内で尿酸ができやすい状態となりますので無理のない一月に1、2kgの減量としましょう。たん白質のアミノ酸は、痛風の場合プリン体に取りこまれやすく尿酸の増加を招きやすいといわれます。高脂肪食は、尿酸を増加させ、排泄障害を起こしやすくします。栄養バランスのとれた食事は、基礎代謝、新陳代謝をよくし正常な状態を維持し尿酸の生成、排出を正常に保つのです。
プリン体窒素(キサンチン、ハイポキサンチン、アデニン、グアニン)を多く含む食品を控える。プリン体は核酸の形で存在しているものが多く含有量の高いものは、細胞が増殖、密集する組織(発芽、骨髄組織、臓物)です。蓄肉類の肝臓もつ、鰹、大正えび、いわし、アルコール(特にビール[麦芽]300mlで20~50mgの総プリン体)のとり方には注意しましょう。さらにアルコールは、40~50歳代からの尿酸排泄機能を低下させ血液中の尿酸の量を増加させてしまいます。そして飲酒によりトイレに近くなるが尿酸の排出は少なく、尿酸以外の水分だけとなります。血中の乳酸の上昇があると尿酸が増加することが知られています。プリン体は、難油溶性、水溶性であることから肉類のエキスの多いスープは、控えめにしてください。高プリン食といわれる一食で150mgを含むものは避けた方が無難です。
酸性食品は、尿酸の生成、沈着、結石の形成を促します。phを弱アルカリ性にしておくことから野菜、海藻類を積極的に取るようにしましょう。血液中のpHは7.3~7.5に緩衝作用により保たれるよう働いていますが一般に魚肉、蓄肉、卵にリン、イオウを、穀類にリンを多く含み酸性食品といいます。乳、乳製品は、カルシュウム、マグネシュウムが、野菜、果物は、カリウムを多く含みアルカリ性を示します。ミネラル中K.Ca.Mg、Na、Feがアルカリ性を示します。
水分を取ることによって尿酸の濃度を薄めることができ、結晶化、結石を作ることを防ぎ、尿酸の排泄を促します。1~2リットル/1日程度、牛乳、お茶の類でエネルギーの少ない飲み物とし水分摂取を増加させることが必要です。1日に2リットルの尿量を保つことにより尿酸排泄量が増加することが実際に確かめられています。尿酸結石の見られる場合は、特に水分を補給することにより結石の排泄を促し、たん白質の制限が必要となってきます。
最近の調査で果糖は尿酸産生を促進させるともいわれています。果糖は、蛋白の糖化の作用が強い物質といわれ、加えて、果糖は尿酸値の上昇を招き結果的に痛風の発作を誘発します。果糖は、果物に多く含まれています。むやみな多量摂取は好ましくありません。
合併症(肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、腎炎)のある場合は、さらに糖質、食塩、たん白質の厳重な制限が加えられます。もっとも多く見られるのが腎臓病です。
外食は、野菜、乳製品が不足しがちで、味が濃厚であり食塩の量が多い傾向です。宴会、パーテーでは、プリン体の多いうに、えび、オイルサーデン、アルコールの飲みすぎ、過剰摂取になりがちです。全体量を考えて取るようにしましょう。
最近の調査でかつお、まぐろの赤身に多く含むアンセリンを摂取すると、血中の尿酸値を低下させる作用があることが分かってきました。尿酸の産生を抑制する再利用酵素といわれているHPRT(ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ)を増やし、疲労で蓄積される乳酸は、尿酸の排泄おくらせることから、さらには乳酸の代謝を促進することによって尿酸の排泄を促進する酵素のLDH(乳酸脱水素酵素)を増やすことが確認されています。
そのため、アンセリンが尿酸の抑制、排泄に働くというのです。この作用により尿酸値を下げるのに働くと考えられています。プリン体を体内で分解したり合成したりする酵素系に作用して、尿酸の蓄積が起きにくくする作用があるというのです。
食品中の総プリン体含有量(100g)
400mg~300mg鶏レバー、いわし干物、干し椎茸(可食量5g:25mg以下)
300~200mg 豚レバー 、大正えび、牛レバー まいわし、かつお、あじ干物(可食量50g:200~100mg)
200~100mg 車えび、するめいか、牛はつ、牡蠣、にじます、あじ、まぐろ、きす、鶏ささみ、さんま、にしん、あさり、鳥手羽、鶏もも、真タイ、鶏皮、豚ヒレ肉、ぶり、鮭、たらこ、かれい、納豆
100~50mg 豚バラ、豚肩ロース、うなぎ、ほうれん草、カリフラワー、アスパラガス
50~25mg えのきだけ、焼きちくわ、ウインナソーセージ、玄米、精白米、なめこ
25mg以下 かずのこ、チーズ、鶏卵、牛乳、豆腐
野菜、果物、油脂、海藻類、調味料、嗜好品、芋類は、50mg以下微量、または含まれていない。
酒(アルコール)類のプリン体含有量100mL当たり:焼酎・泡盛0mg、ウイスキー0.1mg、梅酒0.2mg、ブランデー・ワイン0.4mg、日本酒1.2~1.5mg、発泡酒0~5.0mg、ビール3.5~15.0mg(500mL:17.5~75.0mg)、地ビール4.6~16.7mg、紹興酒7.7~11.6mgですが、お酒は、加齢と共に尿酸排泄機能の低下させ血液中の尿酸の量を増加させてしまいます。
食料構成例を示しておきましょう。
一日の食糧構成(例)エネルギー1908Kcal たんぱく質66.9g 脂肪50.37g 炭水化物289.2g ナトリウム590mg(調味料を含まず:調味料を含んで3940mg以下とする) カリウム2685mg(調理による損失30~50%をも含む) カルシュウム636mg マグネシュウム272mg リン983mg 鉄8.1mg 亜鉛9.1mg 銅1.12mg マンガン3.17mg ビタミンA947μg ビタミンD11μg ビタミンE9.3mg ビタミンK502.9μg ビタミンB1:1.05mg ビタミンB2:1.36mg ナイアシン8.8mg ビタミンB6:1.07mg ビタミンB12:3.7μg 葉酸461μg パントテン酸5.3mg ビタミンC152mg コレステロール324mg 食物繊維13.6g、食塩換算10g 総プリン体300~150mg(調理による損失を含む)
食品名 | 魚介類 (生) |
魚介類(干) | 獣鳥肉(豚肩ロース肉脂身つき) | 牛乳 | 卵類 | 緑黄色野菜 (ほうれん草) |
その他の野菜 (キャベツ) |
海藻類 (干ひじき) |
数量(g) | 70 | 1 | 50 | 200 | 50 | 100 | 200 | 3 |
目安 | かれい中1切れ | 一つまみ | 小一切れ | 1カップ | 小一個 | 5株 | 中1/4切れ | 大さじ1/2杯 |
食品名 | 馬鈴薯 | 柑橘類 (みかん) |
その他の果実類 (りんご) |
精白米米飯 | 小麦 | 甘味噌 | 大豆製品 (豆腐) |
油脂類 | 堅果類 (胡麻) |
砂糖 | |
数量(g) | 50 | 30 | 70 | 500 | 40 | 10 | 100 | 20 | 2 | 20 | |
目安 | 馬鈴薯で中1/2程度 | 取り混ぜてりんごで小1個 | 大きい茶碗で二杯 | 食パン六枚切り1枚 | 梅干大1個 | 1/3~1/4丁 程度 |
大さじ2杯弱 | 小匙1杯弱 | 大匙2杯 |
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