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三谷幸喜のクリスティ第三弾「死との約束」

2021-03-08 | ドラマ感想


前回のアクロイド殺しこと黒井戸殺しがすごく面白かったので第三弾も楽しみにしていて録画していたのをさっき見終えました
原作はもちろん読んでいるのでなかなか殺されない被害者も犯人もわかっているのですが、ドラマだと細部をちょこっと変えてたりするのが楽しかったりします

前作は犯人とそのお姉さんがすごくよくて、とくにお姉さん役の斉藤由貴がほんとに善人でありながらちょっと狂っていて、守ってあげたくなる可愛いさいじらしさ哀しさで、弟がああなってしまったのもわかる、あかんことだけど彼のそうしてしまった動機なんかもわかる、って感じで最後感動で立てなかったくらいです

ちなみに第一弾のオリエント急行はぜーーーーんぜんだめでした
(例えばはかない絶対守らねばならないと騎士道魂男に思わせねばならないはずの伯爵夫人がしっかりした娘になってて腹立つくらいクソだったとか、
殺されるあいつも怖さ憎たらしさ、つまり「そーされてあたりまえやろが」、というのが足りなくて、カタルシスも何もなかったとか。あのさ、あいつは変な愛嬌出しちゃだめやろが、と佐藤浩市にそんな演出付けた奴をぶんなぐってやりたかった。ちなみにケネス・ブラナーの映画の伯爵夫人もジョニー・デップも素晴らしかった)

さて今回の「死との約束」ですが、今回の肝はポアロが旅先のエジプトで出会う、とある歪で気持ち悪い大富豪一家です


性悪どころか暴虐的で底意地が悪く鬼のようないかつい未亡人のババアに完全に支配されている、というかもう苛めに虐められている子供たち。
末っ子以外は全員先妻の子供たちで、イギリスならば成人した長男が父親の財産は継いでいるはずなのですが、そこらへんクリスティはちゃんと「アメリカ人の一家」って設定付けています
遺言やらなんやらでいい弁護士付けちゃえば何とでもなる新世界です

子供のころから金と暴力とで抑圧・支配されているので継母に一切逆らえない生気のない顔をした息子・娘たち
彼らの描写が気持ち悪くてかわいそうでメロドラマ的で面白いんですね

三谷さんは今回舞台を和歌山の熊野古道にうまくあてはめています
そこでポアロこと勝呂萬斎先生が出会う奇妙な一家
問題はその丸太のような腕をした酷薄そうな曲がった唇を持つ支配的な地獄の肥満ババア役が松坂慶子さんだったのです
松坂さん。

この役が肝なのに。

全然意地悪そうにも性根が腐ってそうにも見えない。
暴力的地獄の漫☆画太郎ババアには見えないのよーーーー!!!
多少太ってるけど身のこなしとかきれいで品のないこと怒鳴ってても(このセリフで彼女が昔どんな奴だったかポアロはあとあと気付く)いやーーな感じがしないのよ
あかんて
このババアは松坂さんみたいな可愛いさ美人さが隠しようもなくこぼれる大女優にさせてはいけません
そりゃこのシリーズは、というか三谷作品はいつだってグランドホテル形式なので犯人も被疑者も被害者も一流の役者をそろえてきますよ
けどこの役はもうちょっと他にいなかったかしら
彼女の吐き気がするような暴君ぶりが際立たないとこの作品はカタルシスがなくて楽しくないのです
犯人の悲しい犯行が際立たないのです

犯人のほうももうちょっと演出何とかならなかったのかな
これは松本清張の「ゼロの焦点」や「砂の器」みたいな、今は成功している犯人が自分の絶対ほじくられたくない過去を暴かれたくなくてやってしまうというあれパターンなので、できればもう少し犯人が追い詰められてやってしまうというところをクローズアップしてほしかった
犯行のトリックが「死ぬほど速く走って殺して帰ってくる」ってだけなので。そこらへんは正直あほらしいですしあの演出ではすぐわかってしまいます
なのでそのへんはさらりと流して犯行動機の悲しさとそれ以上のみっともなさずるさとかをねちねち描いたほうが良かったのではないかと思います

だいたい勝呂さんとの恋バナみたいなのは今回みたいな話では蛇足になりますよ。
もちろん原作にはそんなのありません。ポアロ、っていうかクリスティは犯行を反省しない女性は嫌いです。
基本クリスティはこずるい女性には徹底的に厳しいです
そこらへんは女性作家ですよ。
すべての作品でいい気になってるいやらしい女は報い・制裁を受けますよ
どんなに若くて美しい女性でも醜い行為には醜い報いを与えます
そこが面白いんじゃ!!  そこが女性に受けるクリスティなんじゃ!!!!
ドイルの甘っちょろいホームズじゃあるまいし。
ってもちろんそっちも好きだがな

今回の犯人。
若いころ峰不二子みたいに宝石店襲って追う警官なぎ倒して逃げてたみたいな過去を、探偵の勝呂と楽しく共有の記憶してる設定、これものすごくありえない
その過去をなんとしてでも隠したい消したいと思っている犯人でないと今回の犯行の動機にはなりえない

いっそそんなだったら犯人はあんな安易な最後にせず、今回の事件でも徹底的に華麗に逃げてほしいと思いましたです。はい
☆2