「出版禁止 死刑囚の歌」長江俊和
読書にハマる
もともと読書は嫌いではなかったが、年齢とともに目の衰えと、過ぎゆく時の速さにペースは落ちていた。
しかし、お昼休みのワイドショーに付き合っていられず、本を読みだした。
読み慣れると、スピードも上がり快適に物語を追う事ができる。
年齢とともに漢字が分からなくなるので雰囲気で読んでいることも多くなったが…
そんななか、この本に出会う。
書店に並んでいた「出版禁止」という題名に興味を覚え、読んだのが「出版禁止カミュの刺客」だった。ホラー小説なのかと読み進めたが、少し違っていた。ホラーはホラーなのだが、読者に謎を残して終了する。そんななぞなぞ小説が気になりこの本を読んだ。
以下※ネタバレ
あらすじについては、記述しません。
そもそもこれを読む人は、読後ご自身で謎が溶けずモヤモヤしている人たちだけだろう。
さて、望月の和歌については、各ネタバレサイトでそこかしこに見かけるので、これも割愛。
ただ、これだけでは、どうしても小説が終わらない。
望月の動機(死ななければならなかった経緯)がどうもしっくりいかない。
どうして補陀洛にいかないといけなかったのか?
そこに、なぜ最愛の娘「今日香」がいるとわかっていたのか?
この謎が私のモヤモヤの原因だった。
それは、今日香が江美(仮名)に投げかけた最後のことばに意味があると思っていた。
ずっと引っかかっていた今日香の最後のことば
江美と今日香の友情が壊れたきっかけ
些細な口論から、江美が言う
「あなたもそう思っているんでしょ」
しばらく考えた今日香が言う
「そうだよ。見下してるよ。あなたのこと…。ずっと憐れんでいた。」
このことばのせいで、江美が背中を押されクラスメートの罠に乗り、今日香が自ら命を落とさねばならなくなったきっかけ。
江美は自分のことを愚かで卑怯な人間だと未だに思い続けている。
今日香のことばを読み解く
そうだよ
みくだしているよ
あなたのこと
ずっとあわれんでいた
作中に出てくる和歌の決まりを当てはめても文章にならない。
物名でもはっきりしない。
今日香から狂歌で考えるも、そもそもこの文章は、和歌になっていない。
さてさてどうしたものか
漢字に疎いわたしはなにげに
「憐れむ」を検索すると…
- かわいそうに思う。気の毒に思う。
- 慈愛の心で接する
とあった。
慈愛の心?そこで、聖書の「憐れむ」を検索
聖書において「憐れむ」とは、全く別の意味を持っていると知った。
聖書の「憐れむ」とは
マタイによる福音書第5章から
主から「憐れみに深い人々は幸いである。その人達は憐れみを受ける」
解釈は色々あるが
「変わらぬ愛」
「相手の幸せのために自分の大切なものを捨てる」
これがしっくりいった。
そこで今日香のことば
「そうだよ。見下してるよ。あなたのこと…。ずっと憐れんでいた。」
そうだよみくだしているよあなたのことずっとあわれんでいた
ここに物名がある
よみくだして→「読み下して」
読み下して
- 文章をはじめから終わりまで読むこと
- 漢文を読み下すこと
「憐れむ」を読み下すと
「あなたのことずっと愛していた。これからも。」
と、読むことが出来ないだろうか?
これは今日香から江美に対してのラブレターだったのだ。
これで霧が晴れたようにすべての謎がはっきりした?と思う。
今日香は、賢く容姿も良かったことから、疎回れ友人もあまり出来なかったのだろう。
中学時代の友達に自分のことばから、疎遠になった経験もあり
図書館に一人でいることの多い今日香の心通わす初めての友人が、江美だったとしても不思議ではないのでは。
初めて出来た友人にどう接していいか分からず、悩む今日香を見て江美が「蔑む」ような遠い目というのも分からなくはない。
聖書の「憐れむ」という解釈も父辰郎からの教えだろう。
望月辰郎が、「主言い給う、復習するは我にあり、我これに報いん。」
と、聖書の一節を取り上げることからもわかる。
では、なぜ今日香は自殺をしなければならなかったのか?
それは、江美への愛を貫き通したかったのではないだろうか?
いじめを否定することで、江美に対していじめが再開する恐れ
それと
江美がいじめを受けていたことを告発出来なかった自分に対しての贖罪
今日香自身、補陀落への道を進んだのではないか?
父辰郎も和歌や聖書、補陀落渡海について今日香に説いていたのだろう。
初めて出来た友人と呼べる江美に、過去の経験からどうして接していいかわかない不器用な今日香
些細な口論から、友情が破綻した
「そうだよ。見下してるよ。あなたのこと…。ずっと憐れんでいた。」
しかし、本来の意味は、江美への変わらぬ愛。
クラスメートのイケメン君からの告白も全く相手にしないことからも、今日香の恋愛対象は女性だったかもしれない。
江美に恋の和歌を恥じらいながら説明することからも伺い知れる。
江美の偽の告発を否定しなかったのも、愛する江美を守る今日香ができるわけがない。
また、江美がいじめを受け悩んでいることを告発できなかった江美への贖罪から沈黙を守らなければならなかったのではないか。
今日香は全てに対し、黙秘し自ら命を絶ち補陀洛へ進んだのではないだろうか。
父辰郎も今日香への自らのことばから先に行ってしまった、今日香が待つ補陀洛への道を探していたのではないだろうか。
江美は、いまも今日香から愚かで卑怯な人間だと思われていると話しているが、本来の意味は
あなたのこと、ずっと愛している。これからも…
あくまで個人の見解です。
他にも謎解きあるので、もしよかったら