2018/5/27(日) 午後 11:18
「中国経済の抱える構造的問題点」
これまで中国は「世界の工場」として輸出を通じて巨額の経常収支黒字を生み出してきた。また、日米欧など海外企業による対中投資の外貨流入に伴い中国人民銀行が外貨準備高を積み上げ、その増加に見合う人民元を発行し商業銀行を通じて融資を拡大。これが改革開放路線以降の中国高度成長の方程式だったのである。
特に2008年9月のリーマンショックは中国の膨張加速のきっかけになったといわれている。FRBは米国が5年間でドルの発行額を約4倍、3兆ドル以上増やし、これによって中国に貿易黒字や海外からの投資を通じ、ほぼ同額のドルが中国に流入。人民銀行は米国と同じ規模で金融の量的緩和を行い、2013年に2桁台の経済成長を取り戻したのであった。
自国に流入する外貨が経済・軍事両面に渡る膨張の原動力となってきた中国は、一方で致命的とも言える脆弱な構造を内包しているといわれている。
中国の対米貿易黒字が経常収支を一貫して支えており、対米貿易での巨額の黒字を稼げなければ、通貨も金融も拡大させられない、という構造的な問題である。
因みに日本の2017年度の貿易黒字4兆円、経常収支全体は22兆7700憶円の黒字であった。中国のように貿易にのみ依存しておらず、対外資産によって収入が得られる構造なのである。中国の海外事業はどれも計画通りに行かず、資金不足で途中で止まっているものも多く、単なる「赤字の輸出」に陥っているもよう。
「トランプの保護貿易主義」
かつて80年代、90年代の日米貿易摩擦の折、米国がとった手法が通商法31条に基づく制裁関税措置の発動を武器に貿易不均衡の是正や市場開放を求める戦略だった。
この手法は世界の貿易ルール作りを担うWTOが発足した95年以降は発動されてこなかったが、トランプ政権下で復活。
米側の統計で、昨年3750憶ドルにも上る米国の対中貿易赤字に着目し、5月3、4日に北京で開かれた米中通商協議で、2020年までに合計2000憶ドルの貿易赤字の削減を中国に迫ったのである。重要な分野を除く全製品の輸入関税を米国を上回らない水準までに引き下げるなどの「要求リスト」を提示したそうだ。
しかし、中国の経常収支黒字は縮小傾向にあり、昨年は1200憶ドルにとどまった。対米貿易黒字を2000憶円も減らせば、中国の対外収支は大幅な赤字に転落し、習近平政権の進める対外膨張戦略は頓挫することになりかねない。
「次世代技術開発を巡る主導権争い」
両者の問題は貿易不均衡問題にとどまらず、本質は世界経済の覇権を巡る対立で、特に米側は、ビッグデータの解析、AIの活用、ロボットなど最先端分野で、中国が市場の支配を進めることに強い懸念を抱いているといわれている。
米国政府が中国への警戒心を強めるきっかけの一つとなったのは、中国が2015年に策定した行動計画「中国製造2025」だったようである。ここではITやロボットなど10分野を重点的に強化し、10年間で世界トップレベルの「製造強国」に並ぶことを目標に掲げている。
米中協議では、中国政府の支援を受けた中国企業が海外企業の買収を通じて技術を入手したり、中国内で活動する海外企業にハイテク技術移転を求めたりする行為を「知的財産権の侵害」であるとして中国側に改善を迫ったそうだが、事実上協議は物別れだったようだ。
5月17、18日に米ワシントンで開かれた2回目の協議で、中国政府は、知的財産の侵害につながるハイテク産業への補助金を削減する米側の要求を拒む代わりに、対米貿易黒字の削減に関して、農産物やエネルギーなどの輸入拡大や自動車の輸入関税の引き下げなどを表明。米側が対中制裁関税の適用をいったん棚上げとして第1R終了。
「チャイナマネーの失速」
今や「チャイナマネー」は実体が伴わなくなってきている。外貨準備高は3兆ドルを超えダントツのようだが、実は中国の場合、外国企業の直接投資、海外市場での債券発行、銀行からの借り入れなど、負債によって入る外貨も人民銀行が最終的に吸収し、外貨準備高として数えており、負債の増加額が外貨準備高の追加分をはるかに超えているらしい。
同時に中国から巨額の資本が逃げ出しており、資本逃避の規模は2015年後半で年間1兆ドルに上った。当局が輸出競争力強化のために踏み切った人民元の切り下げを嫌って、中国国内の投資家や共産党幹部など富裕層が闇ルートを通じて資金を海外に移したためだ。その後、人民元相場をやや高めに誘導したことで資本逃避は減ったものの、昨年でも2000憶ドル前後の水準で流出。
「北朝鮮情勢をめぐる米中間の駆け引きと今後の行方」
来月12日にシンガポールでの開催が予定されていた米朝首脳会談は開催が不透明となったが、トランプ政権はかねてから北朝鮮の金正恩労働党委員長に対する習氏の影響力に期待してきた。習氏はそれを逆手にとって、これまでは米中通商交渉で米側の譲歩を迫ってきた。
今年の11月に中間選挙を控えるトランプ政権にとって、有権者にアピールする上でも、中国の脅威の増大を食い止める上で、最も効果的な方法が中国の対米黒字大幅削減なのである。
一方、終身国家主席の座を確保した習氏にとって、貿易黒字2000憶ドルの削減は「一帯一路」や共産党主導の経済モデル自体が崩壊危機にさらされかねないだけに、両者の駆け引きは更にどのような展開となるか注目される。
引用:
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180527-00000518-san-bus_all
http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/2018/20180507_2.html
コメント
こんばんは
中国による知的財産権侵害や米企業への技術移転強要などの対抗措置として、アメリカは、25%の追加関税を第1弾で360億ドル、第2弾で140億ドル、あわせて8月までに合計500億ドルを発動しました。これに対して中国も同額の追加関税を行いました。
9月に発動の第3弾は、これでもかという巨額の2000億ドルです。当初は税率10%で発動し中国が年末までに政策変更に応じない場合は、25%に引き上げるそうです。
トランプ政権は、中国が報復に出れば新たに全ての輸入品に関税を課す検討に入ると脅しの表明を行いました。
さすがに中国も第3弾の2000億ドルの対抗措置として同額をあげられず600億ドルに留まりました。大豆やトウモロコシの関税引き上げ・輸入停止措置に関して、アメリカ農家からはトランプ政権に文句がでていないようです。それもそのはず欧州勢が米国産大豆を大量に買い付けているようです。中国の農業経済は、米国からの輸入大豆に1/3を頼っていますから、いわば中国は自分の首を絞めることになります。たぶん欧州から高い米国産大豆を購入するのでしょうね。
2018/11/26(月) 午後 9:13 泉城
つまり、貿易額からしてもその内容からしても、制裁で大きなダメージを受けるのは中国のほうです。アメリカにはまだ2670億ドルの玉がありますので中国の対抗措置は限られ苦しいですね。
中国による知的財産権侵害や技術移転強要が少なくなるのか、米国の制裁関税措置の行方を見守りましょう。
2018/11/26(月) 午後 9:13 泉城
> 石田泉城さん
こんばんは。コメントをありがとうございます。米国の対中貿易戦争の本気度は、これまでになく鮮明ですね。今日なども、60億ドル(約6790億円)規模の福建省晋華集成電路(JHICC)の半導体工場の拡張工事が、トランプ米大統領によるテクノロジー輸出規制強化の影響で中断というニュースなどもありますね。本気で中国を潰しにかかっているようですね。
それだけではなく「赤字の輸出」といわれる一帯一路への反感があちこちから出てきて、親中的であったパキスタンでまで中国領事館がテロにあったり、世界中から中国の真の意図が見抜かれ始めていますね。
こんな状況下で中国に未だに投資しようとする日本企業があるとすれば、馬鹿げていますね。
2018/11/26(月) 午後 10:00 kamakuraboy
「中国経済の抱える構造的問題点」
これまで中国は「世界の工場」として輸出を通じて巨額の経常収支黒字を生み出してきた。また、日米欧など海外企業による対中投資の外貨流入に伴い中国人民銀行が外貨準備高を積み上げ、その増加に見合う人民元を発行し商業銀行を通じて融資を拡大。これが改革開放路線以降の中国高度成長の方程式だったのである。
特に2008年9月のリーマンショックは中国の膨張加速のきっかけになったといわれている。FRBは米国が5年間でドルの発行額を約4倍、3兆ドル以上増やし、これによって中国に貿易黒字や海外からの投資を通じ、ほぼ同額のドルが中国に流入。人民銀行は米国と同じ規模で金融の量的緩和を行い、2013年に2桁台の経済成長を取り戻したのであった。
自国に流入する外貨が経済・軍事両面に渡る膨張の原動力となってきた中国は、一方で致命的とも言える脆弱な構造を内包しているといわれている。
中国の対米貿易黒字が経常収支を一貫して支えており、対米貿易での巨額の黒字を稼げなければ、通貨も金融も拡大させられない、という構造的な問題である。
因みに日本の2017年度の貿易黒字4兆円、経常収支全体は22兆7700憶円の黒字であった。中国のように貿易にのみ依存しておらず、対外資産によって収入が得られる構造なのである。中国の海外事業はどれも計画通りに行かず、資金不足で途中で止まっているものも多く、単なる「赤字の輸出」に陥っているもよう。
「トランプの保護貿易主義」
かつて80年代、90年代の日米貿易摩擦の折、米国がとった手法が通商法31条に基づく制裁関税措置の発動を武器に貿易不均衡の是正や市場開放を求める戦略だった。
この手法は世界の貿易ルール作りを担うWTOが発足した95年以降は発動されてこなかったが、トランプ政権下で復活。
米側の統計で、昨年3750憶ドルにも上る米国の対中貿易赤字に着目し、5月3、4日に北京で開かれた米中通商協議で、2020年までに合計2000憶ドルの貿易赤字の削減を中国に迫ったのである。重要な分野を除く全製品の輸入関税を米国を上回らない水準までに引き下げるなどの「要求リスト」を提示したそうだ。
しかし、中国の経常収支黒字は縮小傾向にあり、昨年は1200憶ドルにとどまった。対米貿易黒字を2000憶円も減らせば、中国の対外収支は大幅な赤字に転落し、習近平政権の進める対外膨張戦略は頓挫することになりかねない。
「次世代技術開発を巡る主導権争い」
両者の問題は貿易不均衡問題にとどまらず、本質は世界経済の覇権を巡る対立で、特に米側は、ビッグデータの解析、AIの活用、ロボットなど最先端分野で、中国が市場の支配を進めることに強い懸念を抱いているといわれている。
米国政府が中国への警戒心を強めるきっかけの一つとなったのは、中国が2015年に策定した行動計画「中国製造2025」だったようである。ここではITやロボットなど10分野を重点的に強化し、10年間で世界トップレベルの「製造強国」に並ぶことを目標に掲げている。
米中協議では、中国政府の支援を受けた中国企業が海外企業の買収を通じて技術を入手したり、中国内で活動する海外企業にハイテク技術移転を求めたりする行為を「知的財産権の侵害」であるとして中国側に改善を迫ったそうだが、事実上協議は物別れだったようだ。
5月17、18日に米ワシントンで開かれた2回目の協議で、中国政府は、知的財産の侵害につながるハイテク産業への補助金を削減する米側の要求を拒む代わりに、対米貿易黒字の削減に関して、農産物やエネルギーなどの輸入拡大や自動車の輸入関税の引き下げなどを表明。米側が対中制裁関税の適用をいったん棚上げとして第1R終了。
「チャイナマネーの失速」
今や「チャイナマネー」は実体が伴わなくなってきている。外貨準備高は3兆ドルを超えダントツのようだが、実は中国の場合、外国企業の直接投資、海外市場での債券発行、銀行からの借り入れなど、負債によって入る外貨も人民銀行が最終的に吸収し、外貨準備高として数えており、負債の増加額が外貨準備高の追加分をはるかに超えているらしい。
同時に中国から巨額の資本が逃げ出しており、資本逃避の規模は2015年後半で年間1兆ドルに上った。当局が輸出競争力強化のために踏み切った人民元の切り下げを嫌って、中国国内の投資家や共産党幹部など富裕層が闇ルートを通じて資金を海外に移したためだ。その後、人民元相場をやや高めに誘導したことで資本逃避は減ったものの、昨年でも2000憶ドル前後の水準で流出。
「北朝鮮情勢をめぐる米中間の駆け引きと今後の行方」
来月12日にシンガポールでの開催が予定されていた米朝首脳会談は開催が不透明となったが、トランプ政権はかねてから北朝鮮の金正恩労働党委員長に対する習氏の影響力に期待してきた。習氏はそれを逆手にとって、これまでは米中通商交渉で米側の譲歩を迫ってきた。
今年の11月に中間選挙を控えるトランプ政権にとって、有権者にアピールする上でも、中国の脅威の増大を食い止める上で、最も効果的な方法が中国の対米黒字大幅削減なのである。
一方、終身国家主席の座を確保した習氏にとって、貿易黒字2000憶ドルの削減は「一帯一路」や共産党主導の経済モデル自体が崩壊危機にさらされかねないだけに、両者の駆け引きは更にどのような展開となるか注目される。
引用:
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180527-00000518-san-bus_all
http://fis.nri.co.jp/ja-JP/knowledge/commentary/2018/20180507_2.html
コメント
こんばんは
中国による知的財産権侵害や米企業への技術移転強要などの対抗措置として、アメリカは、25%の追加関税を第1弾で360億ドル、第2弾で140億ドル、あわせて8月までに合計500億ドルを発動しました。これに対して中国も同額の追加関税を行いました。
9月に発動の第3弾は、これでもかという巨額の2000億ドルです。当初は税率10%で発動し中国が年末までに政策変更に応じない場合は、25%に引き上げるそうです。
トランプ政権は、中国が報復に出れば新たに全ての輸入品に関税を課す検討に入ると脅しの表明を行いました。
さすがに中国も第3弾の2000億ドルの対抗措置として同額をあげられず600億ドルに留まりました。大豆やトウモロコシの関税引き上げ・輸入停止措置に関して、アメリカ農家からはトランプ政権に文句がでていないようです。それもそのはず欧州勢が米国産大豆を大量に買い付けているようです。中国の農業経済は、米国からの輸入大豆に1/3を頼っていますから、いわば中国は自分の首を絞めることになります。たぶん欧州から高い米国産大豆を購入するのでしょうね。
2018/11/26(月) 午後 9:13 泉城
つまり、貿易額からしてもその内容からしても、制裁で大きなダメージを受けるのは中国のほうです。アメリカにはまだ2670億ドルの玉がありますので中国の対抗措置は限られ苦しいですね。
中国による知的財産権侵害や技術移転強要が少なくなるのか、米国の制裁関税措置の行方を見守りましょう。
2018/11/26(月) 午後 9:13 泉城
> 石田泉城さん
こんばんは。コメントをありがとうございます。米国の対中貿易戦争の本気度は、これまでになく鮮明ですね。今日なども、60億ドル(約6790億円)規模の福建省晋華集成電路(JHICC)の半導体工場の拡張工事が、トランプ米大統領によるテクノロジー輸出規制強化の影響で中断というニュースなどもありますね。本気で中国を潰しにかかっているようですね。
それだけではなく「赤字の輸出」といわれる一帯一路への反感があちこちから出てきて、親中的であったパキスタンでまで中国領事館がテロにあったり、世界中から中国の真の意図が見抜かれ始めていますね。
こんな状況下で中国に未だに投資しようとする日本企業があるとすれば、馬鹿げていますね。
2018/11/26(月) 午後 10:00 kamakuraboy