ブリンケン米国務長官は6月8日、米外交官らに「ハバナ症候群」と呼ばれるさまざまな神経系の健康被害を引き起こしたとみられる指向性無線周波数による攻撃について、原因究明に向けて政府全体で調査していると述べた。ロシアなど国家による関与が疑われれば問題提起する考えも示したが、現時点で原因は判明していないとした。
「真夜中に目が覚めて、信じられないほどのめまいに襲われた。部屋はグルグル回っていた。吐き気もした。これまでイラクやアフガニスタンにも駐在し、撃たれたこともあるが、それはこれまでの人生で最も恐ろしい体験だった」これは、2017年12月に元CIA諜報員のマーク・ポリメロポロス氏が滞在中だったモスクワのホテルでした恐怖体験で、今年2月、CNNに対して語ったものだ。
「1日を乗り切ることができなくなった。あの夜から毎日頭痛がしている。昼も夜も、頭痛はなくならなかった」「まだ撃たれた方がましだった。これは、“物言わぬ傷”だから。撃たれてできた傷なら人にそれを見せることができる」
CIAの医療スタッフたちが、当初、彼の症状を理解してくれなかったというジレンマが背景にあったそうで、モスクワで体験した恐怖の夜から3年以上経った2021年1月、同氏はやっとCIAの同意を得て、ウォルター・リード米軍医療センターで「外傷性脳損傷」と診断され、治療を受けることができた。涙が出たという。
同氏は体調不良で2019年には、26年勤めたCIA(中央情報局)を50歳で早期退職している。
■キューバの「ハバナ症候群」
キューバでアメリカの外交官らが原因不明の体調不良を訴えたのは、マイクロ波に直接さらされたのが原因だった可能性が高いと、米政府が米国アカデミーがまとめた報告書で明らかにした。報告書は、マイクロ波を誰が発していたのかは特定していないが、50年以上前に当時のソヴィエト連邦が、パルス無線周波エネルギーの効果を研究していたと指摘。
この体調不良は2016~2017年に、キューバの首都ハバナのアメリカ大使館職員と家族らにみられ、めまい、バランス感覚の喪失、聴覚障害、不安症、「認識に霧がかかった」ような症状を報告。「ハバナ症候群」と呼ばれるようになった。
米国政府はキューバが「音波による攻撃」を実行したと非難。キューバはこれを強く否定。両国関係は緊張が増した。
同様の症状は、カナダ大使館の職員の少なくとも14人にもみられており、カナダはその後、キューバ大使館職員を減らした。
今回の報告書の研究は、約40カ国の政府職員の症状について、医療と科学の専門家チームが実施。報告書によると、多くの政府職員らが長期間、体の衰弱に悩まされており、「これらの特徴的で深刻な兆候や症状、(政府)職員が報告した所見の多くは、パルス無線周波(RF)エネルギーが向けられたことによる効果と一致している」
「西側とソ連側で半世紀以上前から公表されてきた研究や情報が、この仕組みの状況証拠になっている」「連続波ではなくパルス波(の無線周波)にさらされることの影響に関して、ロシア/ソヴィエト連邦でかなりの研究」がされていたと指摘。「ユーラシアの複数の共産国」の軍人らが、非熱的放射にさらされたことがあったと指摘。
■中國広州の米総領事館で起きたマイクロウェーブ攻撃
症状を訴えた米外交官らは、キューバ勤務経験者に限らず、トランプ政権下の2018年には、中国南部・広州市の米総領事館に勤務していた職員らが、「わずかで不明瞭だが普通ではない、音や圧力の感覚」を訴え、職員の1人は、軽い脳損傷と診断され、これを受け、米政府は数人の職員を異動させている。