学生時代、店でR.シュトラウスのオペラ「サロメ」を買っていたら、先輩と鉢合わせしたことがあった。彼はぼくの持っていた「サロメ」のレコード(そうだよ、CDなんてもんはなかったんだよ。昔、あらえびすとか読んでて、SPの話が出てきたときのぼくの印象をこれ読む今の若い人たちはきっと持っているんだろうな)を見て、それがカラヤン盤であることを知ると、にやっと笑って「すけべだなあ」とあきれ顔に呟いたものだ。
名盤と評価が高く劇的なベーム盤ではなく、どこもかしこも磨き上げた上にネトーっとくねっていくカラヤン盤を選んだところがきっとその感想を生んだのだろう、と思った。
当たり前である。
だって、ぼくはカラヤンがHっぽいから選んだだもん。
人それぞれ好き嫌いはあるだろうけれど、ぼくは別にカラヤンでベートーヴェンやブラームスを聞きたいとは思わない。バッハもドビュッシーもフォレもカラヤンで聞こうとはしない。でも、シェーンベルクの「浄夜」とかR.シュトラウスとかはカラヤンいいな、と思うのだ(正直に告白するとヴァーグナーの「トリスタンとイゾルデ」もぼくはカラヤン盤を持っていた)。
そう、すべてHミュージック。ぼくはHな音楽が好きなのだ(ほかにもマーラー5番のアダージェットとか、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲とか)。
で、こないだ聴いたのがこのCD。ベルリンフィルの腕っこきチェリスト12人による合奏曲集。ピアソラなどのタンゴを集めたCDも面白かったのだが、これは映画音楽集。以前紹介したマックス・ラーベも参加している(このCDのラーベは昔のアメリカのミュージカル歌手のようだ)。映画はつまらなくても音楽はよかったり(「タイタニック」とか)、聞き進めるのがなかなか楽しいのだけれど(ラヴ・ミー・テンダーっていい曲か? 同じ曲調ならぼくはトゥルー・ラヴの方が好きだ。ビング・クロスビーとグレース・ケリーよかったなあ)、白眉はヒッチコックの「めまい」から「ラブ・シーン」(身も蓋もないタイトルだな)。
ああ、この弦楽器特有のうねり感。とてもH。それにこれ、すごく「トリスタンとイゾルデ」の前奏曲に似ている(誰です、フェリーニの「道」のあのテーマってドヴォルザークの弦楽四重奏曲そっくりとか言う人は)。ああ、いっそ、このうねりの海に溺れてしまいたい。
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