毎日が観光

カメラを持って街を歩けば、自分の街だって観光旅行。毎日が観光です。

先週の読書

2009年02月16日 20時04分02秒 | 読書

 橋本治/内田樹「橋本治と内田樹」     筑摩書房
 内田樹による橋本治の解剖対談。そして「橋本治」を出発点にあちこちふらふらしながら、やがてまた「橋本治」に帰ってくる。驚異的な多作者であり、精力的な執筆者であるのは両者共通。いろいろ気づかされることが多い。
 戦後教育なんて括り方は乱暴きわまりないというのも納得。だって戦後って60年もあるんだもん。
「僕らが小学生のときなんて、先生の半分くらい明治生まれだったわけですからね。明治生まれの、『坊っちゃん』や『三四郎』を四十年くらい老けさせた校長先生が朝礼の訓話でしゃべってるわけですよ。そういう先生が話すのって、だいたい自分が明治時代に小学生のときに聞いた訓話の焼き直しなわけでしょう。その校長先生のそのまた先生は天保生まれかもしれないし。だから、僕らの小学校のとき、教育空間の一部はほとんど江戸時代と地続きだったんですよ。」
 戦争初期にアメリカ軍を困らせた零戦の部品は牛車で運んでいた。昭和と江戸時代はたいして変わらなかったりする。



 内田康夫「地の日天の海」     角川書店
 上巻はそれなりに面白かったのだけれど、地の日=秀吉に対する天の海=天海、この両者が絡んだ話なのかと思っていたのだけれど、そうなった瞬間唐突に話は終わる。なんだ、今までの歴史小説の筋立てと同じじゃないか、ちょっとがっかり。違うところは、信長の残虐性。これについてよく書いてあって、英雄信長像に異議をはさむ内容になっている。この部分が光秀謀叛の原因の一つになっていったという話はわかりやすかった。



 林田直樹「クラシック新定番100人100曲」     アスキー新書
 一人の作曲家についてだいたい3pほどの記述。そこで作曲家と選んだ1曲などについて書く。多くの場合、こうした企画は作曲家のうわっつらをなでて終わり、読んでいて何の薬にも毒にもならない。
 しかし、この本は違う。スプラッタ的な表現で申し訳ないが、この著者は利き腕をぐっと作曲家のお腹に突っ込み、胆をわしづかみにして取り出してわれわれに見せる。何年にどこどこで生まれてなんて話はない。
 たとえばクープランについてはこうだ。
「クープランの音楽は、「私は悲しい」とか「私は嬉しい」とか、そういった一人称の音楽ではないように思う。それはロマン派の世界である。それよりも、響き自体が、現実と夢の境界線へと聴く者の心を誘い、不思議な精神的解放をもたらすのだ」
 深い洞察と優しい目線と細やかな感受性に裏打ちされた著者の語りは、音楽を聴く裾野を広げてくれるとともに、その音の精妙な調べの奥深さも教えてくれるだろう。新書の可能性を広げたと言っても過言じゃない。
 その新たな可能性はこの卓越した文章のみならず、ネットととのコラボレーションにも現れている。
アスキーのサイトにアクセスすると、著者の勧める100曲を聴くことができる。運用は今年いっぱいぐらい。ジスモンチやフィンジ、ブローウェルなどそれほどメジャーじゃない作曲家の素晴らしい音楽に触れるチャンスである。



 羽田圭介「走ル」     河出書房新社
ところどころの描写にうなるけれど、ぼく、だめ、これ。受け付けないや。
 ビアンキに乗って走り出したら停まらなくなって、青森まで自転車で走ってった話。そう聞けば食指がびんびんに動くんだけれど、どうにもこの主人公がつまらなくてイヤ。
 別につく必要もないくだらない嘘を数多くつきすぎることに違和感。



 大泉洋/松久淳「夢の中まで語りたい」     マガジンハウス
 「水曜どうでしょう」ファンであり、大泉洋ファンであるぼくは、「アフタースクール」などの映画に飽きたらず、今度は大泉洋の本まで読んでしまった。対談集。
 猫好きな人間に向かって「トイレに流れちゃえばよかったのに」と言い切りながら、なぜか憎めない性格が彼の持ち味。そういった大泉洋の雰囲気がよく出ていて、楽しめた。



 中沢新一/山本容子「音楽のつつましい願い」     筑摩書房
 ため息が出るほど美しい本。
 クラシック音楽の作曲家11名について中沢新一が文を書き、山本容子がエッチングを描く。文が美しく、エッチングが美しい。流れる文章の美しさに時間とともにある身体が流されがちで、意味をとらえることなく過ぎてしまいそうになるほど。
 慌てて戻り、また文章の美しさを体中に感じながら散歩をすることの、なんて幸せなことだろう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 東京ウォーカー(下) | トップ | さよなら会津 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事