
車で走ってると、助手席に座っていたガールフレンドが、なんだか嬉しそうな顔でこう言った。「あ、このホテル来たね」
それから流れた時間は数秒なのか、1秒すら経ってないのかわからない。車の中に流れていた時間が急に変わった。
ぼくは昔カンボジアに行ったとき、雨と晴天の境界を見たことがあった。車で走っていて、あ、あそこから雨なんだとはっきり別れているのを見た。まさにそんな感じ。車の中の空気は彼女の発言以前と以降とでは、地球の自転がずれるほど変わっていたのだ。
「長く付き合ってると、なんでもaquiraくんとの思い出のように思っちゃうんだよねえ」
「ふうん、こんなとこまで来てたんだ」
「お願い、ごめん、迂闊な発言は謝るから」
「え、ここで繰り広げられたきみの秘技や必殺技など語らなくていいのかい?」
「どっかでお昼食べようよ」
「あのさ、ぼくの中に悪魔と天使がいるんだけど」とぼくは言った。「悪魔は話が面白いから引き伸ばせって言ってる」
「あのう、すみません、天使の方でお願いします」
「天使は、手を振って悪魔に賛成だって言ってます」
そう、こういう事は人生に於いて多々ありますねえ~。
時計の針を戻せないかと泣きたくなります。
一番やりそうでやっちゃいけないのが、名前の呼び間違えですよねえ。
口にしながら、違うぞそれっ!と気づく瞬間の焦ること。
「ねえ、奈津…休みさっ、どこ行ったっけ?!」
何の脈絡もない話をいきなり始めて却って怪しい。