信仰をもって歳を重ねる
適切な服装を
ローリー・カーター
筆者はアメリカ合衆国カリフォルニア州在住です。
今度は,わたしたちが母に適切な服装をさせる務めを果たす時でした。
ごく幼いころから,母はありとあらゆる場面で,わたしたちが適切な服装をするよう心を配っていました。
5人の娘がいましたから,これはなかなか大変なことでした。
スカートでなければならないときにズボンをはいていれば,母に着替えるよう言われました。
姉妹の一人が,どんなに寒くてもコートで隠してしまいたくないと思うような,かわいらしい新しい服を着ていたときにも,母は全員コートを着るようにと言って譲りませんでした。
母は自分自身も常に適切な服装をし,わたしたちにもそうさせていました。
母はその生涯をかけて,わたしたち一人一人に服の選び方だけでなく,生き方も教えてくれました。
母は福音の喜びについての考えや,神殿の大切さについての証を分かち合ってくれました。
自分の望みは,神殿の儀式が永遠の幸福に及ぼす影響をわたしたち一人一人が理解することだと,母ははっきりと言っていました。
やがて,わたしたちが集まって埋葬のために母に衣服を着せなければならない日が来ました。
母は,時間が許すかぎりすべてのことをわたしたちに教えた後,この世を離れて次の世へ行きました。
これはわたしたちにとって,母への深い愛,母がわたしたちの心に植え付けてくれた原則への感謝の気持ちを示す機会でした。
今度は,わたしたちが母に適切な服装をさせる務めを果たす時でした。
埋葬のための衣服を着せる部屋に入ったとき,母の遺体はそこに形だけがあるように見えました。
母の霊のぬくもりは消え去り,死の冷たさに取って代わられていました。
娘たちと孫娘の何人かで母を囲みながら,わたしたちはこの偉大な女性の人生に敬意を表しました。
そして最後にもう一度,母がわたしたちの人生における祝福であったことへの感謝を伝えたいと思いました。
母の娘は今では6人になっていました。
リア,ヘザー,ゲイリーン,ローリー,メリンダ,そして義理の娘のエイドリアンです。
わたしたち6人が,母を囲んで小さな輪を作りました。
次に,わたしたちの娘たちが,その周りに二つ目の輪を作りました。
この二つの輪は,母の人生が生み出した愛の波紋を思わせました。
母の影響力と母の子孫たちの義にかなった選択により,神殿の聖約の祝福は世代を超えて波及し,神権の聖約の祝福はどこまでも広がっていくでしょう。
娘たちの手によって埋葬の準備が行われました。
わたしたちは母の冷え切った体を,暖かな神殿のローブで丁寧に覆いました。
一つ一つのリボンを注意深く結び,上履きを履かせ,衣服がすべて正しく着せられた状態になるよう努力を払いました。
仕上げは,最後のリボンを結ぶことでした。
できるかぎりきれいに結ぶよう気をつけながら,わたしたち一人一人の心の中に,ある思い出がよみがえってきました。
わたしたちがそれぞれ初めて神殿に入ったとき,母もわたしたちのために,仕上げのリボンを結んでくれました。
もうこれで最後となる母のリボンを結びながら,わたしたちはいわばこのとき,永遠の感謝の気持ちとともに,神殿の祝福という贈り物を母にお返ししていたのです。
母を見ているわたしたちそれぞれの心が,温かい気持ちで満たされました。
もはや母は死の冷たさに包まれてはいませんでした。
母はとても美しく見えました。
天にいる母の姿が容易に想像できました。
母はそこで,天の御父のもとに帰りたいと強く願いながら,愛する人たちに囲まれていました。
部屋を出るとき,わたしの心にふと,自分はもう母の世話をすることができる人生の時期を生き切ったのだという思いが浮かびました。
母は最後まで堪え忍びました。
母は忠実に年齢を重ね,自らの模範によって子孫に祝福をもたらしてきました。
わたしは,自分も母に倣い,いつか娘や孫娘たちに同じような受け継ぎを残せることを願い,祈りました。
(2021年7月号リアホナ 末日聖徒イエス・キリスト教会機関誌から)