日本人にはなじみの花のひとつ「彼岸花」。種子で増えないので、鮮やかな花は人間たちや蝶たちへの贈り物のようなものか。俳句の世界では曼珠沙華としてよくうたわれている。「彼岸花 蝶あたふたと あたふたと 伊丹三樹彦」。
(2021年初秋 裏高尾)
■高尾の花
「カタクリ」(高尾の花 21-01)
「雪割草」(高尾の花 21-02)
「リュウキンカ」(高尾の花 21-03)
「ショウジョウバカマ」(高尾の花 21-04)
「キクザキイチゲ」(高尾の花 21-05)
「タツタソウ」(高尾の花 21-06)
「キバナセツブンソウ」(高尾の花 21-06)
「ハナネコノメ」(高尾の花 21-07)
「ヨゴレネコノメ」(高尾の花 21-08)
「ムラサキケマン」(高尾の花 21-09)
「アミガサユリ」(高尾の花 21-10)
「ミヤマカタバミ」(高尾の花 21-11)
「タカオスミレ」(高尾の花 21-12)
「ヒトリシズカ」(高尾の花 21-13)
「ナガバノスミレサイシン」(高尾の花 21-14)
「イカリソウ」(高尾の花 21-15)
「セントウソウ」(高尾の花 21-16)
「マルバコンロンソウ」(高尾の花 21-17)
「ニリンソウ」(高尾の花 21-18)
「アマナ」(高尾の花 21-19)
「ヒメリュウキンカ」(高尾の花 21-20)
「ユリワサビ」(高尾の花 21-21)
「キケマン」(高尾の花 21-22)
「ジュウニヒトエ」(高尾の花 21-23)
「トキワイカリソウ」(高尾の花 21-24)
「マルバスミレ」(高尾の花 21-25)
「アカフタチツボスミレ」(高尾の花 21-26)
「ヤブニンジン」(高尾の花 21-27)
「ミミガタテンナンショウ」(高尾の花 21-28)
「クサノオウ」(高尾の花 21-29)
「ヤマエンゴサク」(高尾の花 21-30)
「オドリコソウ」(高尾の花 21-31)
「エイザンスミレ」(高尾の花 21-32)
「ネコノメソウ」(高尾の花 21-33)
「シロヤブケマン」(高尾の花 21-34)
「セリバヒエンソウ」(高尾の花 21-35)
「ツルカノコソウ」(高尾の花 21-36)
「シラユキゲシ」(高尾の花 21-37)
「エビネ」(高尾の花 21-38)
「クワガタソウ」(高尾の花 21-39)
「ヤマブキソウ」(高尾の花 21-40)
「ウワミズザクラ」(高尾の花 21-41)
「カキドオシ」(高尾の花 21-42)
「クマガイソウ」(高尾の花 21-43)
「ウラシマソウ」(高尾の花 21-44)
「タンチョウソウ」(高尾の花 21-45)
「シラネアオイ」(高尾の花 21-46)
「キンラン」(高尾の花 21-47)
「ホタルカズラ」(高尾の花 21-48)
「チゴユリ」(高尾の花 21-49)
「ユキモチソウ」(高尾の花 21-50)
「黄花カタクリ」(高尾の花 21-51)
「イチリンソウ」(高尾の花 21-52)
「ラショウモンカズラ」(高尾の花 21-53)
「グミ」(高尾の花 21-54)
「バイカカラマツ」(高尾の花 21-55)
「セッコク」(高尾の花 21-56)
「エビガライチゴ」(高尾の花 21-57)
「フタリシズカ」(高尾の花 21-58)
「サイハイラン」(高尾の花 21-59)
「コアジサイ」(高尾の花 21-60)
「ママコノシリヌグイ」(高尾の花 21-61)
「マツカゼソウ」(高尾の花 21-62)
「ノブキ」(高尾の花 21-63)
「キツネノマゴ」(高尾の花 21-64)
「シュウカイドウ」(高尾の花 21-65)
「コウヤボウキ」(高尾の花 21-66)
「ダイコンソウ」(高尾の花 21-68)
「カリガネソウ」(高尾の花 21-69)
「キレンゲショウマ」(高尾の花 21-70)
「ヤブラン」(高尾の花 21-71)
「タマアジサイ」(高尾の花 21-72)
「ヤブレガサ」(高尾の花 21-73)
「イセハナビ」(高尾の花 21-74)
「スズムシバナ」(高尾の花 21-75)
「カシワバハグマ」(高尾の花 21-76)
「ツリフネソウ」(高尾の花 21-77)
「キバナアキギリ」(高尾の花 21-78)
「キツリフネ」(高尾の花 21-79)
「センニンソウ」(高尾の花 21-80)
「ヤブマメ」(高尾の花 21-81)
「キンモクセイ」(高尾の花 21-82)
「アオジソ」「(高尾の花 21-83)
「ヤブミョウガ」「(高尾の花 21-84)
「ムラサキツユクサ」「(高尾の花 21-85)
「彼岸花」
ヒガンバナ(彼岸花)
多年草。
人家に近い田畑の縁、堤防、墓地などに群生して、花期には人目をひく。鱗茎は広卵形で外皮は黒い。葉は線形、深緑色で光沢があり、長さ30〜40cm、幅6〜8mm、花の終わったあと晩秋に現れて束生し、翌年3〜4月に枯れる。花茎は高さ30〜60cmになる。総苞片は披針形で膜質、長さ2〜3cm、花柄は長さ6〜15mm。花は朱赤色、花被片は狭倒披針形で長さ約40mm、幅5〜6mm、強く反り返り、筒部は長さ6〜10mm、喉部の副花冠状裂片はごく小さく不規則なものもある。花糸は花冠の外にいちじるしく突出し、細長く、赤色、上方に曲がり長さ約8cm。葯は長楕円形で暗赤色。花柱は糸状で赤色、雄しべよりも長い。果実は不稔で、種子はできない。まれにできても発芽しないことが多い。北海道〜琉球に広く分布するが、もとよりの自生ではなく、昔、中国から渡来したものが広がったものと考えられる。花期は9月。(日本の野生植物)
学名は、Lycoris radiata
ヒガンバナ科ヒガンバナ属
よく似たものに変種で2倍体のコヒガンバナがある。花期が1ヶ月ほど早く、結実する。
曼珠沙華 の例句
*ひつじ田の畦の景色の彼岸花 日野草城
あかつきは白露づくし 彼岸花 伊丹三樹彦
あち向いてどの子も帰る曼珠沙華 中村汀女
あはれ来て野には咏へり曼珠沙華 三橋鷹女
あまつさえ威銃 火の彼岸花 伊丹三樹彦
ありふれし明日来るならひ曼珠沙華 斎藤玄 雁道
いつせいに散るときなきか曼珠沙華 斎藤玄 雁道
いつぽんのまんじゆしやげ見ししあはせに 山口誓子
いつまで生きる曼珠沙華咲きだした 種田山頭火 草木塔
いとしみ綴る日本の言葉曼珠沙華 中村草田男
いとどしき朱や折れたる曼珠沙華 中村草田男
うつりきてお彼岸花の花ざかり 種田山頭火 草木塔
おづおづと出て曼珠沙華野を走る 原裕 青垣
おのおのの紅つらならず曼珠沙華 斎藤玄 雁道
おのれにこもればまへもうしろもまんじゆさげ 種田山頭火 自画像 落穂集
お前さん どこへ行くんじや 彼岸花 伊丹三樹彦
お彼岸のお彼岸花をみほとけに 種田山頭火 草木塔
お針子を姉と慕いし 彼岸花 伊丹三樹彦
かたかたは花そば白し曼珠沙花 正岡子規 曼珠沙華
かなしくてからまる蘂の曼珠沙華 鷹羽狩行
かなしとや見猿のためにまんじゆさげ 其角
かへり観れば行けよ行けよと曼珠沙華 中村草田男
きざみ藁飛び来て曼珠沙華疲れ 能村登四郎
くれなゐの冠いただき曼珠沙華 鷹羽狩行
けふの野にはじめて鵙と曼珠沙華 山口誓子
けぶらしめ消えしめ今日の曼珠沙華 加藤秋邨
ここを墓場とし曼珠沙華燃ゆる 種田山頭火 草木塔
こと欠かぬ鬼火 大江の彼岸花 伊丹三樹彦
この世ともあの世とも曼珠沙華の中 中村苑子
この畦のここを繁華に曼珠沙華 上田五千石『森林』補遺
この道や中将姫の彼岸花 阿波野青畝
これとても盛ありけりまんじゆさげ 松窓乙二
こんこんと水も土より曼珠沙華 百合山羽公 故園
こんもりと家が隠れて曼珠沙華 廣瀬直人
さきがけをゆるさぬ畦の曼珠沙華 鷹羽狩行
さきほどの陽が総退場 彼岸花 伊丹三樹彦
さみどりの直き茎よし曼珠沙華 石田波郷
さる寺の煤け杉戸の曼珠沙華 能村登四郎
じゅずだまの小道盡きたり曼珠沙華 正岡子規 曼珠沙華じゅずだま(漢字二文字:草冠+意
すがれたる曼珠沙華など見て行きしか 山口誓子
すれちがふ顔昏れてをり曼珠沙華 岡本眸
そのあたり似た草もなし曼珠沙花 正岡子規 曼珠沙華
たがへずに曼珠沙華咲き草の庵 後藤夜半 底紅
たたずめばわがかげに燃え曼珠沙華 冬青集 海門以後
たちまちに鎌のとばせる曼珠沙華 石田勝彦 秋興以後
たはやすく世の終りいふ曼珠沙華 林翔 和紙
ためらはでゆくさきざきの曼珠沙華 松村蒼石 雁
だしぬけに咲かねばならぬ曼珠沙華 後藤夜半 底紅
ちゝはゝの俄かに恋し曼珠沙華 川端茅舎
つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口誓子
つはものの命は消ぬる曼珠沙華 三橋鷹女
どこもかも衝突ばかり曼珠沙華 阿波野青畝
どつと咲き而して褪せ曼珠沙華 清崎敏郎
どの道も墓地へあつまる 彼岸花 伊丹三樹彦
なかなか死ねない彼岸花さく 種田山頭火 草木塔
はやすがれゐて貧農の曼珠沙華 山口誓子
ひしひしと立つや墓場のまん珠さけ 正岡子規 曼珠沙華
ひよつと葉は牛が喰ふたか曼珠沙花 正岡子規 曼珠沙華
ひらがなの蘂ちらし書き曼珠沙華 鷹羽狩行
ふるさとの曼珠沙華今も同じ道 細見綾子
まことお彼岸入の彼岸花 種田山頭火 草木塔
また来れば画家亡くまんじゆさげも失す 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
まつさをな曼珠沙華見し真夜の底 平井照敏
まどはしの日が雨にさす曼珠沙華 山口誓子
まなうらに薄明の渦曼珠沙華 佐藤鬼房
まんじゅしゃげ 墓地にて開ける法衣函 伊丹三樹彦
まんじゆさげうすきねむりをもてあそぶ 藤田湘子
まんじゆさげばかりの旅の落つかず 青水輪 昭和二十四年
まんじゆさげ一茎一花夜が離れ 野澤節子 鳳蝶
まんじゆさげ夕べのひかりとなりて失す 岸田稚魚 筍流し
まんじゆさげ夕日長者の沼炎ゆる 角川源義
まんじゆさげ失せて行方もしれぬかな 鷲谷七菜子 花寂び
まんじゆさげ安静あけて余生感 角川源義
まんじゆさげ暮れてそのさきもう見えぬ 白幡南町 昭和三十年
まんじゆさげ月なき夜も蘂ひろぐ 桂信子 女身
まんじゆさげ波郷の南療図書館に 角川源義
まんじゆさげ白はままつこ一つ咲き 草間時彦
まんじゆさげ釈放人を待てる群 早桃 太白集
まんじゆさげ雲の間より日の柱 冬雁 昭和二十一年
まんじゆしやげこの一群は倒れたり 山口青邨
まんじゆしやげ亡びのこゑをつらねたる 上田五千石『琥珀』補遺
まんじゆしやげ仮名にて書けばはかなさよ 山口誓子
まんじゆしやげ刈られて蟇が手をつけり 平畑静塔
まんじゆしやげ希臘の聖火道それず 平畑静塔
まんじゆしやげ揚羽が翅をたたみかけ 平畑静塔
まんじゆしやげ盗むを許せ八重葎 平畑静塔
まんじゆしやげ花を了れる旗竿を 山口青邨
まんじゆしやげ鴉つぎつぎ腹かすめて 金子兜太
みだれては蘂ねぶりあひ曼珠沙華 能村登四郎
むらがりて一つのこゑの曼珠沙華 森澄雄
もはや手が付けられぬ火の 彼岸花 伊丹三樹彦
ゆき過ぎて振向く花や曼珠沙華 石川桂郎 含羞
ゆく水に映え曼珠沙華日々腐つ 伊丹三樹彦
わが室に相應はば相應へ曼珠沙華 相生垣瓜人 明治草
わが家の白曼珠沙華遂に絶ゆ 右城暮石 散歩圏
われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華 杉田久女
われも亦掻き消えたしや彼岸花 林翔
コンと咳 コンコンと咳 彼岸花 伊丹三樹彦
トンネルの口や孤独の曼珠沙華 渡邊白泉
一と群の死活まざまざ 彼岸花 伊丹三樹彦
一夜にて 火の手のあがる 彼岸花 伊丹三樹彦
一徹に並びて咲ける曼珠沙華 山口誓子
一抹の澄気が通る曼珠沙華 能村登四郎
一本の火の畦となる曼珠沙華 鷹羽狩行
一茎の紅露につづく曼珠沙華 百合山羽公 寒雁
七草を見は見たれども 彼岸花 伊丹三樹彦
万屋の電池買占め 彼岸花 伊丹三樹彦
三日はや一尺五寸曼珠沙華 川端茅舎
三鬼亡し川にたむろす曼珠沙華 角川源義
上堤裏に墓四五そして曼珠沙華 山口誓子
不意といふこと怖しく曼珠沙華 岡本眸
九十九里の一天曇り曼珠沙華 加藤秋邨
乱費にも似るお灯明 彼岸花 伊丹三樹彦
亀石に踏まれて曼珠沙華の反り 佐藤鬼房
二も三も素木の鳥居 彼岸花 伊丹三樹彦
二列の曼珠沙華路行方知らず 中村草田男
二十歳の日と同じ紅曼珠沙華 津田清子
二里足らぬ道に飽きけり曼珠沙華 正岡子規 曼珠沙華
五慾とも五衰とも見え曼珠沙華 鷹羽狩行
人を泣かせ己も泣いて曼珠沙華 鈴木真砂女 紫木蓮
人来ては去り来ては去り曼珠沙華 鈴木真砂女 都鳥
人混みを手に燃やし過ぐ曼珠沙華 山口誓子
今年も豊年の花曼珠沙華 右城暮石 句集外 昭和四十二年
今朝すべて踏まれてありぬ曼珠沙華 渡邊白泉
今生の闇凛々と曼珠沙華 飯島晴子
仮の世に生き白曼珠沙華に遇ふ 上田五千石『琥珀』補遺
何よりも曼珠沙華咲く頃待たる 山口誓子
何故にあるのか白の曼珠沙華 細見綾子
何故に在るのか白の曼珠沙華 細見綾子 牡丹
佛足に一本の曼珠沙華を横たふ 橋本多佳子
供へまつるお彼岸のお彼岸花のよろしさ 種田山頭火 草木塔
偶像の裏そっけなく曼珠沙華 橋閒石
偶像の裏そつけなく曼珠沙華 橋閒石 朱明
傘さげて使ひあるきや曼珠沙華 石橋秀野
僧房へ少し山路や曼珠沙華 松本たかし
僻地教師に 褪せて完璧 彼岸花 伊丹三樹彦
入鹿首塚蘂ゆすりゐる曼珠沙華 松崎鉄之介
共に立つ朱塗鉄筋曼珠沙華 山口誓子
凝燃と曼珠沙華群雨に堪ふ 山田みづえ 忘
処得て 賽の川原の 彼岸花 伊丹三樹彦
刈られたる試歩のしるべの曼珠沙華 能村登四郎
初鵙の一と鳴きに群れ曼珠沙華 原裕 青垣
刻を逸せず流れ去る水曼珠沙華 中村草田男
前の世に来りし家か曼珠沙華 平井照敏 天上大風
勧請の女縄(めなは)を宙に曼珠沙華 佐藤鬼房
包帯を干す眩しさの 彼岸花 伊丹三樹彦
北鎌倉駅今朝よりの曼珠沙華 草間時彦
十二橋の一橋くぐりまんじゆさげ 桂信子 晩春
十団子の珠のくもりや曼珠沙華 上田五千石『田園』補遺
十字架祭まんじゆしやげまだ咲ききらず 星野麥丘人
十茎の一茎横斜曼珠沙華 山口青邨
千手ことごとくくれなゐ曼珠沙華 鷹羽狩行
半鐘を誰も鳴らさず 彼岸花 伊丹三樹彦
卒然と想起して野の曼珠沙華 富安風生
南無大師白に変化し彼岸花 百合山羽公 樂土
南面のやや西よりに曼珠沙華 中村草田男
取巻かれ取巻き竹と曼珠沙華 藤田湘子 てんてん
叢やきよろりとしたる曼珠沙花 正岡子規 曼珠沙華
古塚や誰が細工の曼珠沙花 正岡子規 曼珠沙華
古戦場昼の篝と曼珠沙華 福田蓼汀 秋風挽歌
吉備の国空寂とあり曼珠沙華 森澄雄
吉野の冬著莪の崖曼珠沙華の崖 右城暮石 上下
名月や蕾あげたる曼珠沙華 野見山朱鳥 愁絶
吹上の茶屋はとざせり曼珠沙華 山口青邨
吾が影に容れて四五本彼岸花 星野麥丘人
吾なしに夫ゐる曼珠沙華を流す 橋本多佳子
命とは蘂噴き上げし曼珠沙華 能村登四郎
和服著てこたびは曼珠沙華の旅 星野立子
咲いてより広き空享く曼珠沙華 能村登四郎
咲き縺れあふ曼珠沙華世阿弥の地 飯島晴子
咲く前はかならず雨や彼岸花 星野麥丘人
咳けば目に曼珠沙華来てそこに燃え 加藤秋邨
噴出の曼珠沙華より庭の秋 上田五千石『風景』補遺
四十路さながら雲多き午後曼珠沙華 中村草田男
四方へ地がひろい曼珠沙華咲いたひとむら 中川一碧樓
四方より馳せくる畦の曼珠沙華 中村汀女
四本五本はてはものうし曼珠沙華 正岡子規 曼珠沙華
回想がちにまんじゆさげまた群がるよ 雪華 昭和三十九年
国守に 赤を乱費の 彼岸花 伊丹三樹彦
土をでて茎透とほる曼珠沙華 百合山羽公 寒雁
土をぬくとき薄紅のまんじゆしやげ 松村蒼石 雪
土を出て恋の無念を曼珠沙華 加藤秋邨
土佐はいま曼珠沙華國遍路行く 森澄雄
土堤刈つてより二日目の曼珠沙華 飴山實 少長集
土着してしまふはかなし曼珠沙華 百合山羽公 故園
地の神の挿してまはりし曼珠沙華 平井照敏
地球儀の 日本の赤の 彼岸花 伊丹三樹彦
地雷死のキャパを偲べと 彼岸花 伊丹三樹彦
坂東の先はえみしや曼珠沙華 藤田湘子 てんてん
堰の水けさしろがねに曼珠沙華 百合山羽公 樂土
境内の植込にあな曼珠沙華 清崎敏郎
墓となりぬはしやぎだす曼珠沙華 三橋鷹女
墓原の曼珠沙華そこへ行かむとす 山口誓子
墓山に汝も累代曼珠沙華 鷹羽狩行
声をはばかる人ありて曼珠沙華 廣瀬直人
夕びとのかげの去りゆく曼珠沙華 松村蒼石 寒鶯抄
夕方は遠くの曼珠沙華が見ゆ 細見綾子 冬薔薇
夜の底に虫の生れつぐ曼珠沙華 角川源義
夜へつづく雲の量感曼珠沙華 能村登四郎
大多摩のひとゝこ遅き曼珠沙華 飯田龍太
大日仏(だいにち)を硝子籠めにし 彼岸花 伊丹三樹彦
大木にはじめての斧曼珠沙華 飯田龍太
大足を老いても頼む 彼岸花 伊丹三樹彦
天つ日や臥牛に炎ゆる曼珠沙華 渡邊水巴 富士
天の紅うつろひやすし曼珠沙華 山口誓子
天も待つ初の一茎曼珠沙華 百合山羽公 樂土
天上へ赤消え去りし曼珠沙華 右城暮石 上下
天国(ハライソ)は知る人ばかり曼珠沙華 角川源義
天道のあと 月道の 彼岸花 伊丹三樹彦
天龍の分水を研ぐ曼珠沙華 百合山羽公 樂土
太股に肉戻りたる曼珠沙華 飯島晴子
奈良に見てけふは伊勢路に曼珠沙華 鷹羽狩行
女の眼拗ねて見ざりし曼珠沙華 右城暮石 上下
女三人の無言の昏み曼珠沙華 野澤節子 花季
女子大は白曼珠沙華紅曼珠沙華 山口青邨
女立ち曼珠沙華立ちけぶりたつ 加藤秋邨
妻のゐる彼岸も近し曼珠沙華 森澄雄
妻の流せし血ほどに曼珠沙華咲かず 能村登四郎
妻子ある故に狂わず 彼岸花 伊丹三樹彦
妻帰りつつあらむ雨天の曼珠沙華 山口誓子
妻病める家や遽かに曼珠沙華 草間時彦 中年
威し銃鳴るたび紅し曼珠沙華 森澄雄
子供等の声も赤らむ曼珠沙華 右城暮石 上下
安房は山の砂無蓋車に彼岸花 古沢太穂 捲かるる鴎
寂光といふあらば見せよ曼珠沙華(法隆寺二句) 細見綾子
寺坂に海が夕づく曼珠沙華 松村蒼石 雁
寺道の凹んでをりし彼岸花 石田勝彦 雙杵
対岸の火として眺む曼珠沙華 能村登四郎
対岸は今燃えどきの曼珠沙華 能村登四郎
居ながらに曼珠沙華咲く崖見ゆる 右城暮石 散歩圏
屠牛場へ道曲りをり彼岸花 阿波野青畝
山へ行く道をふさぎて曼珠沙華 細見綾子
山墓にあたらしき露曼珠沙華 森澄雄
山墓に午後もうるほふ曼珠沙華 飯田蛇笏 白嶽
山道を降り来て曼珠沙華の道 右城暮石 虻峠
山雀のこゑの真近き曼珠沙華 飯田龍太
山麓声なくて初曼珠沙華 岡井省二 山色
岩戸から 今しもの日矢 彼岸花 伊丹三樹彦
島中を随いてまはれる曼珠沙華 岸田稚魚
崖一面曼珠沙華の葉梅咲けり 右城暮石 句集外 昭和五十一年
嶺かけてひかり満つ野の曼珠沙華 野見山朱鳥 愁絶
川沿や芒が中の曼珠沙華 河東碧梧桐
川波の高ければこそ曼珠沙華 飯島晴子
巨石一つ据ゑて離宮の曼珠沙華 鈴木真砂女 都鳥
市終るすこしも売れぬ曼珠沙華 金子兜太
師より享く曼珠沙華の句夢さめぬ 星野麥丘人
幻の柩野をゆく曼珠沙華 角川源義
幻の町に入つても曼珠沙華 山口誓子
幻花とは今日かげもなき曼珠沙華 能村登四郎
幼なにも秘めごとあそび 彼岸花 伊丹三樹彦
幾年も見しかど今の曼珠沙華 能村登四郎
広島へ帰る児のあり彼岸花 星野麥丘人
座席得て手に取る如く曼珠沙華 右城暮石 声と声
庭にすがれ野にすがれゆく曼珠沙華 山口誓子
庭古くおのづから藪曼珠沙華 山口青邨
廃坑直前の殉職曼珠沙華 鷹羽狩行
弁当に酢の香立ちたる曼珠沙華 森澄雄
張る蕋に 日がな機音 彼岸花 伊丹三樹彦
彼岸入り四国の白い曼珠沙華 細見綾子
彼岸花 このまま往けば 黄泉の国 伊丹三樹彦
彼岸花 城壁に隙あらばこそ 伊丹三樹彦
彼岸花 帰山仁王は白布ぐるみ 伊丹三樹彦
彼岸花 平成元年 初点火 伊丹三樹彦
彼岸花 彼岸花 番水時計ないがしろ 伊丹三樹彦
彼岸花 性別ありて世は面白 伊丹三樹彦
彼岸花 撮るも 詠うも 夢うつつ 伊丹三樹彦
彼岸花 父母への仏事怠るとは 伊丹三樹彦
彼岸花 牛も好奇の顔寄せ来る 伊丹三樹彦
彼岸花 蕾残すは一茎のみ 伊丹三樹彦
彼岸花 蝶あたふたと あたふたと 伊丹三樹彦
彼岸花 迷い鴎に火の海ぞ 伊丹三樹彦
彼岸花かざす韋駄天 鬼の山 伊丹三樹彦
彼岸花さくふるさとはお墓のあるばかり 種田山頭火 草木塔
彼岸花つんつん咲くも島育ち 鈴木真砂女 居待月
彼岸花ばかりを撮って 百歩ほど 伊丹三樹彦
彼岸花もつて乗りけり稲舟に 高野素十
彼岸花彼の岸よりぞ飛来せし 相生垣瓜人 負暄
彼岸花心中などとは 絵空ごと 伊丹三樹彦
彼岸花数珠玉はまだ青くして 森澄雄
彼岸花父の病を母嗣ぎき 石田波郷
径まがりまがりて曼珠沙華に厭く 橋閒石 朱明
忽焉と父になりけり曼珠沙華 上田五千石『田園』補遺
思ひ合すものゝ少き曼珠沙華 右城暮石 句集外 昭和十年
性こりもなく今年また曼珠沙華 鷹羽狩行
恋の夢獏に食はさじ曼珠沙華 鈴木真砂女 紫木蓮
恍惚は不安のごとく曼珠沙華 平井照敏 天上大風
悉く鎬削る火 彼岸花 伊丹三樹彦
悔いるこころの曼珠沙華燃ゆる 種田山頭火 草木塔
愁ひつゝ旅の日数や曼珠沙華 河東碧梧桐
我を愛せとバラ我を殺せとまんじゅしゃげ 楠本憲吉 方壺集
我在る限り故友が咲かす彼岸花 中村草田男
戦友の碑へ 火線成す 彼岸花 伊丹三樹彦
戦無派の 黒髪の丈 彼岸花 伊丹三樹彦
手のとどくむなしさありぬ曼珠沙華 斎藤玄 雁道
折る前に 折る音のして 彼岸花 伊丹三樹彦
抜きん出るとは汝のこと 彼岸花 伊丹三樹彦
抱かるべき茎柔軟に曼珠沙華 岡本眸
捨てきれぬものにふるさと曼珠沙華 鈴木真砂女 紫木蓮
捨子花顔仰向くるあはれなり 岡本眸
故里のどの畦行かむ曼珠沙華 細見綾子
旅の日のいつまで暑き彼岸花 臼田亜郎 定本亜浪句集
日が没りて道のせかるゝ曼珠沙華 山口誓子
日の落る野中の丘や曼珠沙華 正岡子規 曼珠沙華
日は天心花冠おごそか曼珠沙華 山口青邨
日向路の咲けば列なす曼珠沙華 鷹羽狩行
日当れば磧さみしき曼珠沙華 鷲谷七菜子 花寂び
日日海を見つつ眼に欲る曼珠沙華 山口誓子
日輪の寂と渡りぬ曼珠沙華 川端茅舎
昇天の讃美歌うたふ曼珠沙華 細見綾子
昇天の鳶に真冬の曼珠沙華 飯田龍太
明らかに泣く背の女 彼岸花 伊丹三樹彦
明るさも暗さ人待つ曼珠沙華 斎藤玄 狩眼
明界のあと 幽界の 彼岸花 伊丹三樹彦
昏くして雨ふりかかる曼珠沙華 橋本多佳子
昨日蘇州 今日摂州の 彼岸花 伊丹三樹彦
昨日見てけふ曼珠沙華みあたらず 加藤秋邨
昼の夢あかきはまんじゆさげなりし 海門 昭和九年
昼酒の鬼の踊りし曼珠沙華 森澄雄
昼間から酔うたり雨の曼珠沙華 橋閒石 和栲
晩年や小脱に憑かる曼珠沙華 角川源義
普門品一夜に曼珠沙華が咲き 森澄雄
暦日に違約はなくて 彼岸花 伊丹三樹彦
暮色濃い不動に 火支度まんじゅしゃげ 伊丹三樹彦
曇り日は眼しづかに曼珠沙華 山口誓子
曼珠沙花郷居の叔父を訪ふ道に 正岡子規 曼珠沙華
曼珠沙花野暮な親父の墓の前 正岡子規 曼珠沙華
曼珠沙華 けふも脈(なみ)うつ山河や 富澤赤黄男
曼珠沙華「末期の眼」こそ燃ゆる筈を 中村草田男
曼珠沙華あしたは白き露が凝る 橋本多佳子
曼珠沙華あたりに他の花寄せず 月魄集 昭和五十六年
曼珠沙華あまた見て又血を減らす 能村登四郎
曼珠沙華いづこも川の波いそぐ 山口誓子
曼珠沙華うしろ向いても曼珠沙華 三橋鷹女
曼珠沙華うせてより野は臥しやすき 能村登四郎
曼珠沙華うち折るらしきうしろかげ 加藤秋邨
曼珠沙華おくれたる一本も咲く 細見綾子
曼珠沙華かかる憶ひ出兵にみな 伊丹三樹彦
曼珠沙華かくかたまれば地の劫火 山口青邨
曼珠沙華かたまり咲くや北国路 村山故郷
曼珠沙華かたみに朱を奪ひあひ 能村登四郎
曼珠沙華かなしきさまも京の郊 石塚友二 方寸虚実
曼珠沙華かな女の手なるかさねの碑 能村登四郎
曼珠沙華からむ蘂より指をぬく 橋本多佳子
曼珠沙華きのふの赤を忘れたる 後藤比奈夫
曼珠沙華くもりたる日はつつましく 山口青邨
曼珠沙華けふは旅なる吾にもゆ 橋本多佳子
曼珠沙華けふ衰へぬ花をこぞり 橋本多佳子
曼珠沙華ここにもありぬありそめて 山口青邨
曼珠沙華ここにも咲ける古刹かな 清崎敏郎
曼珠沙華ここ夕映えの日が見たし(法隆寺二句) 細見綾子
曼珠沙華この世の出水絶ゆるなき 松村蒼石 寒鶯抄
曼珠沙華この群れたがるものの朱 佐藤鬼房
曼珠沙華しどろに春の闌けてゆく 相生垣瓜人 負暄
曼珠沙華じっとりと垂れ少女の掌 伊丹三樹彦
曼珠沙華すがれて夕日さそひけり 冬青集 海門以後
曼珠沙華すがれて花の老舗たり 山口誓子
曼珠沙華すつくと系譜絶ゆるべし 鷲谷七菜子 花寂び
曼珠沙華その呱々の声聞きたしや 林翔
曼珠沙華そろひ傾く水の上 山口青邨
曼珠沙華たじろぎて茎のぼりけり 松村蒼石 雁
曼珠沙華つき挿す水の少なし 中川一碧樓
曼珠沙華つつがなかりし門を出づ 松本たかし
曼珠沙華つなぎ合せてレイとせる 右城暮石 上下
曼珠沙華どれも腹出し秩父の子 金子兜太
曼珠沙華にあやされ幼な仏かな 林翔
曼珠沙華にも背高の名を付ける 山口誓子
曼珠沙華にも陣備ありにけり 能村登四郎
曼珠沙華に彳つわびしさを娘も持ち初め 楠本憲吉 孤客
曼珠沙華に鞭うたれたり夢さむる 松本たかし
曼珠沙華のこして陸が海に入る 西東三鬼
曼珠沙華の一茎枯れしよりの冷 安住敦
曼珠沙華の炎へ蝶が死にに来る 林翔
曼珠沙華の葉をぬらしたる粉雪かな 細見綾子
曼珠沙華の隙なき構へ根より抜く 桂信子 女身
曼珠沙華はふりのけぶり地よりたつ 橋本多佳子
曼珠沙華ひそかに死者のはなしごゑ 野見山朱鳥 運命
曼珠沙華ひとむら炎えて落人村 楠本憲吉 方壺集
曼珠沙華ひとりが踏んで径なす 石川桂郎 高蘆
曼珠沙華ふれあふ蘂と蘂の惨 鷹羽狩行
曼珠沙華ほつりと赤し道の辺に 日野草城
曼珠沙華ほろび我立つ崖の上 三橋敏雄
曼珠沙華ぽつぽと咲いて寺幟 石田勝彦 雙杵
曼珠沙華まだ咲かぬかと見に出でし 下村槐太 天涯
曼珠沙華まつ赤にくらし海のほとり 鷲谷七菜子 黄炎
曼珠沙華までの空気の冷えてゐし 後藤比奈夫
曼珠沙華みとりの妻として生きる 橋本多佳子
曼珠沙華みな山に消え夜の雨 森澄雄
曼珠沙華むざと折らねばならぬかに 細見綾子 桃は八重
曼珠沙華もう数へねば花消えよ 加藤秋邨
曼珠沙華もつれる蘂の中けむる 上田五千石『森林』補遺
曼珠沙華もろ手をあげて故郷なり 鈴木真砂女 紫木蓮
曼珠沙華やうやく枯れて夏立てり 相生垣瓜人 明治草
曼珠沙華より沖までの浪激し 西東三鬼
曼珠沙華わが去りしあと消ゆるべし 野澤節子 花季
曼珠沙華わが庭に咲く人が見る 山口青邨
曼珠沙華わなわな蘂をほどきけり 上田五千石 田園
曼珠沙華カメラ放列宥しけり 鈴木真砂女 都鳥
曼珠沙華レンブラント呆け生魚喰ふや 角川源義
曼珠沙華一ひらの雲魔のごとし 村山故郷
曼珠沙華一枚の藪枯れつくす 松村蒼石 雪
曼珠沙華一火が飛んで萱原に 能村登四郎
曼珠沙華一茎の蕊照る翳る 山口誓子
曼珠沙華三界火宅美しき 川端茅舎
曼珠沙華並列し又割拠して 山口誓子
曼珠沙華乙字門葉今いづこ 村山故郷
曼珠沙華人ごゑに影なかりけり 廣瀬直人
曼珠沙華人来て晩年と言へり 細見綾子
曼珠沙華今年の秋も曲りなし 百合山羽公 樂土
曼珠沙華今朝出頭す二寸かな 川端茅舎
曼珠沙華仏は首失はれ 阿波野青畝
曼珠沙華伽藍の階に咲きくだつ 伊丹三樹彦
曼珠沙華何本消えてしまひしや 三橋敏雄
曼珠沙華俄かに畦の高くなり 石田勝彦 雙杵
曼珠沙華入日の中に燠となり 鷹羽狩行
曼珠沙華冬葉あをあを法隆寺 細見綾子
曼珠沙華十四五本も生けたらむ 相生垣瓜人 明治草
曼珠沙華十字架を斬るキリスト像 角川源義
曼珠沙華卍の旗をいまはおろす 山口青邨
曼珠沙華南国の出に田が親し 中村草田男
曼珠沙華南面十日王者待つ 中村草田男
曼珠沙華印結ぶ指ほどきけり 川端茅舎
曼珠沙華名もなき野川海に入る 山口誓子
曼珠沙華周りの空気いつも透く 桂信子 草影
曼珠沙華咲いてまつくれなゐの秋 三橋鷹女