それほど目立たない花だが、秋の七草の一つになっている「フジバカマ」。藤色の花弁の形が袴のようだというので、この名前がついた。古くに中国から渡来したらしく、万葉の昔から親しまれてきた花だ。かつては「蘭」と呼ばれ、『日本書紀』の允恭天皇記に「蘭」と記載されている花がこのフジバカマらしい。淡い色がどこか懐かしい思いを誘う。「すがれゆく色を色とし藤袴 稲畑汀子」
(2021年秋 東京都)
■秋の花(2021)
「タイアザミ」(秋の花 21-001)
「ミズキンバイ」(秋の花 21-002)
「ナンバンギセル」(秋の花 21-003)
フジバカマの基本情報
学名:Eupatorium japonicum(Eupatorium fortunei)
和名:フジバカマ(藤袴) その他の名前:アララギ、香草(こうそう)、蘭草(らんそう)
科名 / 属名:キク科 / ヒヨドリバナ属
フジバカマの特徴
フジバカマは「秋の七草」の一つで、万葉の時代から人々に親しまれてきた植物です。夏の終わりから秋の初め、茎の先端に直径5mmほどの小さな花を、長さ10cm前後の房状に多数咲かせます。川沿いの湿った草原やまばらな林に見られ、まっすぐに伸びる茎に、3裂する葉が対になってつきます。地下茎が大量に伸びて猛烈な勢いで広がるため、自生地では密生した群落になるのが普通ですが、現在の日本には自生に適した環境が少なくなったため激減し、絶滅危惧種となっています。フジバカマの名で市販されているものの多くは、サワフジバカマ(フジバカマとサワヒヨドリの雑種)です。
生乾きの茎葉にクマリンの香り(桜餅の葉の香り)があり、中国では古く芳香剤として利用されました。また、『論語』にある「蘭」はフジバカマを指します。しかし後世、蘭がシナシュンランなど花に香りのある温帯性シンビジウム属の種を指すようになったため、現在の中国では、フジバカマは「蘭草」とされています。
フジバカマの基本データ
園芸分類 草花,山野草
形態 多年草 原産地 東アジア(中国~朝鮮半島、関東地方以西の本州、四国、九州)
草丈/樹高 60~120cm 開花期 8月から9月(残り花は10月ごろまである)
花色 白
耐寒性 強い 耐暑性 強い
特性・用途 落葉性,香りがある,盆栽向き,初心者でも育てやすい
すがれゆく色を色とし藤袴 稲畑汀子
たまゆらをつつむ風呂敷藤袴 平井照敏 猫町
丹波けふいづこも照りぬ藤袴 岡井省二 鹿野
丹波より京に入るなり藤袴 森澄雄
大原女の恋をきかばや藤袴 日野草城
寝用意も夜さむに成てふぢばかま 千川
橘の後に物ありふぢばかま 露川
白がねの目ぬきやさしや藤袴 洒堂
立ち枯れて藤袴とも見えずあり 清崎敏郎
綾子亡きあとも匂へり藤袴 松崎鉄之介
苗札のふぢばかまとぞ読まれける 山口青邨
藤袴 どの道とるも熊野へと 伊丹三樹彦
藤袴とてそだて来し蕾もつ 山口青邨
藤袴とも思ほゆる隔に 飯島晴子
藤袴日和かひよどり花晴か 岡井省二 有時
藤袴死相顕わにして明るし 橋閒石 卯
藤袴白したそがれ野を出づる 三橋鷹女
藤袴笠は何笠桔梗笠 正岡子規 藤袴
袴穿く腰の高さの藤袴 松崎鉄之介
音たててまた来る山雨藤袴 福田蓼汀 秋風挽歌