六月の神代植物公園に、ベンケイソウ科の花の一つのキリンソウが群れて咲いていた。この科の植物は似たものが多いが、キリンソウはまとまって咲くのが特徴だ。変種名の floribundum が、「花の多い」を意味するのも、よく理解できる。俳句の世界でも麒麟草という名前にひかれてか、好まれているようだ。「湖めぐり来て麒麟草咲ける宿 村山故郷」のように、ごく普通にみられたのだろう。
(2019-06 東京都 神代植物公園)
キリンソウ(麒麟草、Phedimus aizoon var. floribundus)は、ベンケイソウ科に属する多年草である。和名は「黄輪草」と表記されることもある。
特徴
茎は太く高さ5-30 cm。葉は肉厚で、長さ2-7cmの倒卵形または長楕円形で互生する。葉の縁は中央から先端にかけて鋸歯形状となる。茎の先端が平らな集散花序となり、マンネングサに似た多数の黄色い花を付ける。花弁は5枚で、花期は5-8月。シノニムの種小名kamtschaticumは、カムチャツカを意味する。別名は「キジンソウ」「キジグサ」ともいい、和名は「傷薬の草」を意味し、これが転訛して「キリンソウ」となったとする説がある。また、中国の古書に登場する伝説上の動物麒麟に由来するという説もある。
分布
シベリア東部・中国・朝鮮半島と日本の北海道・本州・四国・九州の山地の日当たりのよい岩場などに分布する。伊吹山の上野登山道の岩場に群落がある。田中澄江が『新・花の百名山』の著書で弓張山地を代表する花の一つとして紹介している。
麒麟草 の例句
きりん草 それより黄な灯で 墓守棲む 伊丹三樹彦
きりん草城攻め入れば褒美遣る 山口誓子
きりん草枯れゆけり括られもせず 岡本眸
きりん草禁制の山行者嶽 山口誓子
ブルドーザーの惰眠 錆噴く 麒麟草 伊丹三樹彦
操車場侵せし麒麟草低し 山口誓子
朝からの修羅の眼 きりん草総揺れ 伊丹三樹彦
湖めぐり来て麒麟草咲ける宿 村山故郷
蜜柑生る国麒麟草少なけれ 山口誓子
鉄路にも川にも沿へる麒麟草 山口誓子
長谷寺の谷間は麒麟草浄土 山口誓子
麒麟草日本の芒凌げざる 山口誓子
麒麟草枯れ尽くしたり醜の醜 山口誓子
麒麟草真葛ケ原の中に立つ 山口誓子
麒麟草箱根の関で堰かれずに 山口誓子