イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

アンデルセン「即興詩人」のGuido Reni(グイド・レーニ)ーRoma

2021年01月28日 21時29分32秒 | イタリア・美術

読書三昧で始まった2021年。
12月、日本経済新聞夕刊、全4回で連載していたドイツ文学者松永美穂さんの「物語の中のクリスマス」という記事を読んでからというもの、改めて童話を読み直したりしていた。
昨日読み終わった本にも「童話というものは大人になってから読む方が断然面白いんだ。」という記述があったが、(これは『平安女子は、みんな必死で恋してた』という本で、イタリア人女性が我が国の古典作品について思うところを述べた本だったのだが…)同感だ。

松永さんの記事では、1回目はディケンスの「クリスマスキャロル」
これはイギリスのクリスマスの伝統を知ることができて面白かった。

2回目はケストナーの「飛び教室」だったのだが、これは読まず、同じくケストナーの「わたしが子どもだったころ」と「点子ちゃんとアントン」を読んだ。
これはこれでむかしむかしのドイツの様子が興味深かった。

最終(第4)回には、クリスマスと言えばこれ!
12月の劇場には欠かせない「くるみ割り人形」の原作、ホフマンの「くるみ割り人形とねずみの王様」
ストーリーは知っているつもりだったけど、原作を読んでびっくりした。

そして順番が入れ替わったけど、3回目がアンデルセンの「モミの木」だったのだが、それよりもアンデルセンと言えば「即興詩人」、即興詩人と言えば森鴎外かぁ、と一瞬頭をよぎった。
但し、鴎外かぁ…
美文だが、辞書は要らないけど、さらっと読める文章ではないなぁ。
まぁ昔取った杵柄(一応日本文学科卒業)で頑張ってみる?
とも思わないではなかったのだが、結局デンマーク語からの翻訳を読む事にして、関連したこちらも図書館で借りてみた。

「即興詩人のイタリア」森まゆみ
デンマーク語からの「即興詩人」を読む前にこちらを読んでしまったのだが、この本は最近亡くなった安野安野光雅が鴎外の「即興詩人」のあとを訪ね絵を描くので、文章を書きませんかと誘われ一緒に行ったローマの話などが書かれている。(結局安野は自分で口語訳の「即興詩人」を出していて、その本は現在机の上に乗っている)

主人公アントニオは「ギドオ・レ二イ(イタリア画工)が仰塵画(てんじょうが)の朝陽(朝日)と題せるを思い出しぬ」(鴎外)を読んだ森まゆみは、持って行ってたちくま文庫の注にあったバルベリーニ宮を訪れる。
バルベリーニ宮は、現在美術館になっているが、そこにはない。
帰国して岩波文庫の注を見て、この天井画はカシーノ・ロスピリオージ宮にあることがわかる。
1613年にレーニが「枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼの別邸にフレスコ画『アウローラ<夜明けの女神>』<現在ロスピリオージ=パッラヴィチーニ家蔵>を描くなど、ローマで多大な成功を収めた」ー「世界美術大辞典」小学館、と裏付ける文章が岩波文庫に載っていたそうだ。
ああ、残念。

グイド・レーニの天井画?
カシーノ・ロスピリオージ宮?
見たことないし、行ったことないなぁ…ということで調べてみた。

写真:Wikipedia
Guido Reni(グイド・レーニ)のAurora(アウローラ)はこれ。
Casino Pallavicini Rospigliosi に有る。
このイタリア語のCasino、敢えて日本語で表記するなら「カーノ(「ジ」にアクセント)」が正しいのだが、賭博場の「カジノ」ではない。
賭博場はCasino'とoにアクセントが付くので「カジ(「ノ」若干長め)」となる。
Casinoは集会場、クラブ、遊戯場という意味もあるが、(ちなみに「売春宿」という意味もある)この場合は「(主に貴族の造った瀟洒な)狩猟小屋、釣り小屋」という意味で使われている。(決して「小屋」ではないよ、これは「お屋敷」だよ。)

写真:Wikipedia
こんなお屋敷、ローマの何処にあるの?と検索したらなんとsul Quirinale、クイリナーレ!?
首相官邸のお向かいだった。そんなところにこんなお屋敷があったとは知らなかった~

Terme di Costantino(テルメ・ディ・コスタンティーノ)の廃墟の上に建てられたPalazzo Pallavicini Rospigliosi(パッラヴィチーニ・ロスピリオージ宮)は教皇パウルス5世(Paolo V)の甥Scipione Borghese(シピオーネ・ボルゲーゼ)枢機卿によって建てられた。
ちなみに現在首相官邸になっているPalazzo del Quirinale(クイリナーレ宮)は、この宮殿の向かい側にある。

写真:Wikipedia
こちらは教皇の邸宅としてパウルス5世が建てたもの。
パッラヴィチーニ・ロスピリオージ宮は1613年、Flaminio Ponzioに依頼され、彼の死後建築家はCarlo Madernoに、片や庭とCasino dell'Aurora(オーロラのカジーノ)はGiovanni Vasanzioが任された。

宮殿の持ち主は短期間にコロコロと替わり、一時はフランス大使館が置かれていたこともあったが、1704年にはクレメンス9世(Clemente IX)の甥、principe Giovanni Battista Rospigliosi(ジョバンニ・バッティスタ・ロスピリオージ王子)が妻のprincipessa Maria Camilla Pallavicini(マリア・カミッラ・パッラヴィチーニ王女)の為に買取り、Rospigliosi Pallavicini家の住居となった。

現在でも宮殿の半分は、Rospigliosi Pallaviciniのものだが、半分ひどい財政危機の為売却され、現在はColdirettiという農業団体の本拠地となっている部分もあるが、小さな美術館もある。
ルネサンスーバロックの作品に加えて、この宮殿が通称Casino dell'Aurora(カジーノ・デッラウロ―ラ)と呼ばれる起因となった、Guido Reniのフレスコ画がやはり最大の目玉。

アポロン(Apollo)が乗った馬車を先導するアウローラ(Aurora)は世界に光をもたらしている。
"quadro riportato(移された絵)"と呼ばれる、額縁に入ったように描かれた、独特の遠近法を使ったフレスコ画で描かれているて、このフレスコ画はローマ古典主義の傑作の1つだが、古代の石棺(sarcofagi)を髣髴とさせる。
Galleria Farnese(現在はフランス大使館が入っている)のAgostino Carracci(アゴスティーノ・カラッチ)の「Aurora e Cefalo(アウロラとケファロス)」影響がみられる。

写真:Wikipedia
首相官邸にもレーニのフレスコ画が残っている。
Cappella del Presepeに有るらしいが、入れないのかな?見たことがないので、こちらを参考に。

Galleria d'arte Pallavicini(パッラヴィチーニ・アート・ギャラリー)のコレクションは主に枢機卿Lazzaro Pallaviciniによって集められた。
現在540点以上の絵画、Annibale Carracci(アンニバレ・カッラッチ), Pietro da Cortona(ピエトロ・ダ・コルトーナ), Nicolas Poussin(二コラ・プッサン)
更に2011年のFilippino Lippi e Sandro Botticelli nella Firenze del'400にも出展されていた、現在La Derelitta(通称ラ・デレリッタ)Mardocheo piange davanti alla porta del Palazzo Reale(王宮の扉の前で泣くモルデカイ」

写真:Wikipedia
Botticelliの作品と考えられているが、1816年ロスピリオージ家がこの作品を購入した時はなんとMasaccio(マサッチョ)の作品だと思っていたようだし、主題も違うものだと考えられていた。
のちにはMantegna(マンテーニャ)の作品だと考えられていたこともあるが、現在はとりあえずBotticelliで落ち着いている。

他にもLorenzo Lotto (ロレンツォ・ロット)のTrionfo della Castità(貞淑の勝利)

写真:Wikipedia
他にもDiego Velázquez(ベラスケス), Pieter Paul Rubens(ルーベンス), Domenichino(ドメニキーノ), Luca Signorelli(シニョレッリ), Guido Reni(レーニ) 、 Guercino(グエルチーノ)などなどを所有しているだけでなく、ローマ1のプライベートコレクションColonna(コロンナ家)と Doria-Pamphilij(ドーリア・パンフィ―リ家)を保管している。ただしこちらは非公開。

建物はGiovanni da San Giovanni (Carro della Notte, 1622-1627, カジーノのレーニのフレスコ画からの影響は明らかだ。), Paul Brilや他の画家たちによってフレスコ画が描かれ、お庭の柱廊はOrazio GentileschiとAgostino Tassiがフレスコ画で装飾を施した。

Casino dell’Auroora Pallaviciniは1月を除く毎月1日、10時から12時、15時から17時無料で公開されている。
制限付き(人数制限?時間制限?どんな制限かは不明)でレーニの「アウローラ」も見ることが出来る。
詳細はこちら...とここにリンクを貼ると「本文に不正な書式が含まれています。」と出て投稿できないので、仕方なくこちらにしておきます。
どうもアドレスにcasinoが入っているのがはねられている要因のよう。
賭博のカジノじゃないのにさっ。

またこの情報を探していたら面白いサイトを発見。
こちのVisite virtualiから普段はなかなか見られないローマの教会や博物館のバーチャル映像が見られる。
今は行けないからこれ見て予習しましょ。

p.s. 「本文に不正な書式が含まれています。」という表示のせいで思いっきり時間取られた~なんだよ~
ということでWikipediaはリンクを貼っていません。



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2 コメント

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馬小屋 (fontana)
2021-01-29 14:25:00
カンサンさん
コメントありがとうございます。
そのフィリッピーノの展覧会がまさに本文に出ているボッティチェッリの作品が出展されていたものです。あそこは所蔵品がないので、国立新美術館のような感じです。非常に質の良い展覧会を開催しています。Scuderiaと言って元は厩舎だった場所です。
Galleria Farneseは特別な行事がないかぎり、予約なしでは入れなかったと思いますが…
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ローマ (カンサン)
2021-01-29 00:22:59
fontanaさんへ、クイリナーレには行ったことがあります。小高いところで広場になっていますね。美術館もありました。私が行った時はフィリッポ・リッピとリッピの息子、フィリッピーノ・リッピ展をやっていたように記憶があります。ちょっと曖昧になってきていますが。Galleria Farnese(現在はフランス大使館が入っている)には行ったのですが、私が行ったのは土曜でした。土曜は12時までの入館で、間に合いませんでした。これはよく覚えています。
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