芸術の秋第3弾は、丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「フィリップス・コレクション展」です。
丁度「フェルメール展」の便乗商法(口悪いなぁ)で発売になったこの本を読んでいたのですが、これまだ読んでる途中なのですが非常に興味深い。
1990年、ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館で起こった、絵画の盗難事件について書かれているのですが、事件のことと合わせて、この邸宅美術館についても言及していて、その辺がもっと知りたくなって、同作者の別の作品を図書館で早速注文、こちらはさらっと読んでしまいました。
足を棒にして歩きまわる大美術館も良いけど、個人の趣味で集めた作品を邸宅で公開しているいわゆる「邸宅美術館」にスポットを当てた本で、これ非常にためになる。図書館で借りたのに、結局手元に置きたくて買ってしまったほど。
この種の邸宅美術館の中には、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館のように、コレクターの強い意思でコレクション作品を貸し出しはおろか、移動させてもいけないという厳しい決まりがあるところもある一方で、フィリップスは、過去に5回も日本で展覧会が行われているという。展覧会で作品を貸し出すとお金になる、更に日本って貸し出し相手としては最高と言われているからなぁ…と世知辛いことを言いながらも、やはり日本で見られるのはうれしい…かな?
個人的にはフィリップス・コレクションの展覧会は初めてだと思うのですが、今回のを見るとすっかり印象派に特出したコレクションなのかと思ってしまう。
だとしたら、こんなに傑作丸ごと日本に持ってきて、今美術館を訪れたらがっかりじゃん、とか余計なことを考えたのだが、前出の本を読んでいたらどうもそうではないらしい。
ワシントンの高級住宅街にあるフィリップス・コレクションは、創設100周年で1921年フィリップス・メモリアル・アート・ギャラリーとしてオープン。1929年にオープンしたニューヨーク近代美術館より早く、アメリカで近代美術を扱う最初の美術館です。フィリップス・コレクションを作ったダンカン・フィリップス(1886-1966)はイエール大学を出た美術評論家でもある。
その収集の柱は、彼が生きた時代のアメリカのモダンアートで、彼はアメリカ絵画の発展に焦点をあて、その源泉を追求するためにフランス近代絵画をコレクションしたという。
その所蔵作品約3000点のうち80%がアメリカの作家の作品。(現在の所蔵品数は4000点を超える)
ヨーロッパ美術中心の美術館が多い中、アメリカ絵画を体系的に見られる貴重な美術館のようだ。(まだ行けてません)
ただ、やはりコレクションの万人受けする傑作の大部分を日本に持ってきてしまっているということに違いはない…すごいわ。さすが「全員巨匠」って三菱一号館美術館が謳ってるくらいですからね。
第1章 1910年代後半から1920年代
第2章 1928年の蒐集
第3章 1930年代
第4章 1940年前半の蒐集
第5章 第2次世界大戦後
第6章 ドライヤー・コレクションの受け入れと晩年の蒐集
第7章 ダンカン・フィリップスの遺志
今展覧会は、こんな感じで7章に分かれて展示されています。
カタログの作品番号が、展示順が違うので、非常に分かりにくいんですけど…
だいたいカタログも単なる作品紹介なのがやはり気にくわない。(なら買うな?)
良いお値段なんだから、もう少し専門的なことを載せて欲しいのですが。
スタートはこのシャルダンの「プラムを盛ったボウル」
この作品はダンカン・フィリップスが特に気に入っていた絵画の1枚で、彼はシャルダンを近代静物画の父とみなし、シャルダンの静物に対するアピールをセザンヌ、ブラックといった創造的な芸術家の眼を先取りするものと考え、この作品を近代絵画と並べて展示しているそうです。
同時期のコレクションにはファンダン・ラトゥールの「アトリエのマネ」とか「夜明け」があり、今回出展されている
モネの「ヴェトゥイユへの道」も同時期です。
1920年代に入るとコレクションは益々充実します。
ダンカンは画家のマージョリー・アッカ―と結婚、その後パリでコレクションの核とも言えるルノワールの「舟遊びの昼食」を手に入れます。(これは今回は出展されていません)
こんな有名な絵がここに有るとは知りませんでした。てっきりパリかと…
他に同時期にコレクションに加わった作品で興味深いものは
ドラクロワの描いた「悪魔に魂を売り渡した代償で演奏技術を手に入れた」と言われた天才的なバイオリニスト、パガニーニの肖像です。この絵を見ているだけで、頭に曲が流れて来ますが…
ドラクロワはもう1点出展されていて、こちらはがらりと色調が変わりますが
こちらはかなり後年に描かれた作品で、1832年1月フランス国王に親善大使に同行して訪れたモロッコの思い出と馬や海といったドラクロアお気に入りのモティーフが組み合わされた作品です。こちら「海からあがる馬」は1944年から45年の冬にフィリップ・コレクションで開催されたドラクロワ展に出品された後、コレクションに加わった作品です。
他にも
モダン・アートの要となる人物の一人として認識していたマネの「スペイン舞踏」もこの時期にコレクションに加わります。
ホントに有名な作品多いです。
ダンカンは特に初期の「スペイン様式時代のマネ」を擁護し、「ゴヤに始まりゴーガンやマティスへと至る鎖をつなぐ重要な輪のひとつ」と考えていました。
1920年代にコレクションに加わった作品には他にマネの「果実を持った少年」、エル・グレコの「懺悔の聖ぺテロ」
クールベの「ムーティエの岩山」などがあります。
この作品とともにブルックリン美術館との競合のすえに手に入れたのが
ドーミエの「蜂起」
当時の新聞にはどちらの作品もフランス絵画の傑作であると称賛されていました。
この作品はフィリップス・コレクションが保有するドーミエの作品の中で、更にはコレクションの中でダンカンが一番優れた作品だと考えていた作品です。
フィリップス・コレクションではドーミエの油彩画を7点所有していますが、今回そのうちの3点が出展されています。
更に1925年にはボナールを手に入れています。
「犬を抱く女」アメリカの美術館に収められた最初のボナール作品です。(「ボナール展」も行かなきゃね!)
ボナールの色彩にすっかり魅了されたダンカンは油絵を17点収集、1930年にはアメリカの美術館で初のボナールの展覧会を開催します。ダンカンはボナールをお気に入りの画家と公言していたそうです。
こちらには4点のボナールが出展されています。きっとボナール展にも出ていることでしょう。
この辺りからポスト印象派にも興味を持つようになったダンカンはセザンヌの「サント・ヴィクトワール山」などをコレクションに加えています。
1930年代に入るとダンカンはキュビズムにも興味を持ちます。
しかしピカソよりブラック派だったダンカン
ダンカンには作品がコレクションに加わるためには「古典主義」「個人的ヴィジョン」「フランスの伝統との連続性」という3つの判断規準が備わったものであり、それを備えるがゆえ時が経っても作品価値は変わらないと確信していました。
ブラックの作品はその条件を完璧に満たすもので、故にブラックの作品を精力的に収集しています。
中でもダンカンはブラックの末期の作品を好んで購入しました。
1934年に購入されたこの作品「丸いテーブル」は美術館の特等席に展示されています。
1939年ダンカンはアメリカにおけるブラックの最初の個展を開催しています。
だからと言ってピカソに興味がなかったわけではありません。
他にも
ゴッホ「道路工夫」や
ゴーガンの「ハム」
マティスなどなどで、宣伝に偽りなしの全てが傑作です。
ちょっと長くなっていますが、中でも私が気に入った作品をいくつか…
まず一番はこれ
わぉ、ルソーが有った。
そして
ルオー
そしてこのゴヤ。
あと、これがココシュカ?
「クールマイヨールとダン・デュ・ジェアン」
ココシュカって、なんとなく怖い絵だと思っていたんだけど…
と、とにかく傑作ばかりの75点。他にも紹介したい作品は有りますが、とりあえずこんなところで、あとは会場に行って見て下さい。来年2月11日まで開催。
美術館から見える丸の内の風景が良いですよね。
既にクリスマスの飾りがお目見えしていました。
参考:邸宅美術館の誘惑 朽木ゆり子
フィリップス・コレクション公式カタログ
写真:フィリップス・コレクション展公式サイトより借用
https://mimt.jp/pc/
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