東京オリンピックのマラソンと競歩について、国際オリンピック委員会(IOC)は10月17日に、競技会場の猛暑の対策として、札幌で開催する意向というか、札幌で行うとの「決定」が世界に発表されています。
来年の東京オリンピックでは、猛暑の対策が大きな課題で、特に屋外で長時間競技が続くマラソンと競歩は大会の組織委員会が開始時間を招致時の計画から前倒しするなど、さまざまな対策を検討してきましたが、IOCはマラソンと競歩の会場を札幌に移す意向だと発表しました。
理由として、オリンピック期間中の気温が札幌では東京に比べて5度から6度低いことをあげています。
マラソンと競歩は、2019年10月まで中東カタールのドーハで開かれた世界選手権で、気温が40度を超える日中を避けてスタートを午後11時半すぎに設定して行われましたが、女子マラソンでは68人のうち完走したのは40人と、出場選手の40%以上の選手が途中棄権したことなど、猛暑の中で競技が行われることに選手や関係者から不安の声が上がっていました。ある意味、「ドーハの悲劇」ともいえる事件です。
いまさらというか、そもそも、真夏の東京オリンピック開催。この時期は通常、1年の中で気温と湿度がもっとも高い時期です。普通に暮らしていても健康被害があるのですから、出場選手や観客に健康被害をもたらす恐れは十二分に想像できるはずです。
1964年に初めて東京で夏季オリンピックが開催された時期は、比較的涼しくて湿度も低い10月です。4年後に開催された1968年メキシコオリンピックも同じく10月に行われています。
しかし、1976年以降のほとんどの夏季オリンピック(例外として、南半球で行われた2000年のシドニーオリンピックは9月後半)は7、8月に開催されています。理由はテレビ放映です。この時期はオリンピック以外に世界的なスポーツイベントが少なく、テレビ局はより多くの視聴者を獲得しようと数十億ドルの放映権料を支払います。
夏季オリンピックが10月開催となると、この時期に米国では、ナショナルフットボールリーグ(NFL)のシーズン開幕や野球の大リーグ(MLB)プレーオフ、欧州ではサッカーシーズンの序盤と重なり、テレビ視聴者を奪い合う事態になってしまいます。
よって、IOCは2020年夏季オリンピックの立候補都市に対し、7月15日~8月31日までの間に開催することを求めました。立候補都市は代替日を提案できるのですが、必ずしも認められるとは限りません。カタールの首都ドーハが2020年夏季オリンピックに立候補したときに7、8月は暑すぎるとして10月開催を提案しましたが、オリンピック放送機構(OBS)とIOCテレビジョン・アンド・マーケティング・サービスSAは、提案に批判的な反応を示しました。一方で、東京は7月24日~8月9日を開催期間としたことも、東京開催に決まった一因だと思います。
なお、東京の立候補ファイルは、「晴れる日が多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」とアピールしています。ですが、気象庁のデータでは、過去20年における7月最後の10日間と8月最初の10日間の平均最高気温は、約32度です。この暑さを「温暖」と呼べるのでしょうか?
東京オリンピックのマラソンコースについては、2016年と2017年の7月後半と8月に気温や湿度などのデータを国際的な研究チームが収集し、選手や観客が熱中症になるリスクが高い状況となる可能性を警告しています。そして、日陰のエリアを増やすよう、大会組織委員会に提言しています。また、緑地環境計画が専門の横張真東京大学教授は、オリンピック史上最悪のコンディションになりかねないと、マラソン競技について警鐘を鳴らしました。組織委は、こうした警告を受け止め、マラソン開始時刻を午前7時半から同7時への前倒しを発表し、マラソンコースや他の主要道路に太陽光の赤外線を反射する遮熱性の塗装を行い、温度を下げる対策をしており、テントや冷風機などの設置を検討していました。
アスリートファーストの視点でのことですので、最大限尊重すべきことだと考えます。これに関して準備してきた日本人選手に不利になるなどの話もありますが、それは実力次第のことでもあるでしょう。
また、すでにチケットが当選して購入した人や、ボランティアに登録されている人などの問題をどう処理するのでしょう。札幌はウェルカムかも知れませんが、関係されている方にとっては、余計な業務が増すばかりです。時すでに遅しの感はありますが、この時期の開催については、覚悟の上だったはずです。
これらに対して、東京都は札幌移転案に対する代替案として、競技の開始時間を前倒しして午前3時や午前5時とすることで従来どおりの都内開催を検討しているとのことです。
ただ、気になるのが、気温だけが理由であれば、「深夜開催」など、別の選択肢もあり得るはずですが、そうでもなさそうな気がするのですが。
いっそのこと、東京の地下街を活用して開催するのも一案ではないでしょうか。今日、10月30日に始まる調整会議の結論が注目されます。
しかし、この状況になってきますと、「東京オリンピック」でなく、まるで「日本オリンピック」と読んでもいいのではないでしょうか。