囲碁漂流の記

週末にリアル対局を愉しむアマ有段者が、さまざまな話題を提供します。初二段・上級向け即効上達法あり、懐古趣味の諸事雑観あり

昭和天皇と私 5

2020年11月09日 | 雑観の森/心・幸福・人生

 


侍従長・入江相政の随筆「古典逍遥」より の巻】

 

 

■手紙を書くよろこび


つとめ先からかえってきたら、

いつものように、

十通ほど手紙が届いている。

そのうちの一通は、安田靫彦からのもの。

今からではもう二十年の昔のこと。

昭和二十年代に結ばれた縁がもとで、

何かにつけて大磯に訊ねては、楽しんだ。

靫彦はいつも言った 「画でも書でも、速くかくほうがやさしい。

でも決して筆を速くならないようにつとめているが、

最も筆の遅いのは小林古径、私も小林君に敗けないよう、

速くならないようにつとめているが、とてもあの真似はできない。

古径の『古』の横の棒、あれを引くのに、二分ぐらいかかる」と。

そしてまた「手紙のようなものでも、

たとえ心のせくことがあったとしても、

速くたって、遅くたって、一本書くのに、

どれだけのちがいがあろうか」とも言った。

まず、封筒に見入り、それから封を切って静かに取り出す。

中の巻紙の書、この間の話のように、靫彦はきっと、

筆をおさえにおさえて書いたにちがいない。

(中略)

私はいつも思う。

「用もないのに、この手紙を書きます。

もしお気に入ったら、茶掛けにでもしてください」、

これぐらいの意気がなくては、

日本というこの美しい国に生まれた甲斐がない。

 

 

 

やすだ・ゆきひこ(明治17~昭和53年) 前田青邨と並ぶ歴史画の大家。青邨とともに焼損した法隆寺金堂壁画の模写にも携わった。「飛鳥の春の額田王」「黎明富士」「窓」は切手に用いられた。良寛の書の研究家としても知られる。

 


         ◇

 

 

入江は、忙しい日々のなかでも、

一日に10通15通と書きなぐっていたが、

この頃には、筆にて候文でゆっくりと書きたい、

としていた。

 

二桁の万年筆を持ち、良くも悪くも“筆まめ”だったわたしも、

最近はキーボードを叩く時間がめっきり増えてしまった。

今は、ブログであり、メールであり、ラインである。

年賀状を欠礼し、切手・封筒・便箋・絵葉書が余っている。

 

だが、手書きの機会を減らさないようにはしている。

頭の神経の違う部分を使うような気がする。

囲碁の棋譜取りは、タブレットではなく、青と赤のペンを使う。

効率化一辺倒では味気なく、アナログの良さもあるのではないか。

デジタルという新しい技術が全てを上書きするワケでもなかろう。

それぞれの良さを玩味し、使い分けを楽しみたい。

 

 


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この項、おしまい



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