第四十五首

あはれとも いふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな
謙徳公
藤原伊尹「これまさ」とも。 (924-972) 貞信公の孫。能書家で三蹟の一人である行成の祖父。
部位 恋 出典 拾遺集
主題
女に捨てられた男の、孤独な弱い心
歌意
私のことをかわいそうだと悲しんでくれそうな人が思い浮かばなくて、きっと私は一人恋焦がれて、むなしく死んでいくのにちがいないのだろうなあ。
私は思いこがれながらむなしくなってしまいそうです。
この歌の背後には、ひとつの物語が思いうかべられる。『一条摂政御集』(一名、豊陰)という物語性をそなえた私家集の巻頭にあるこの歌からは、定家も歌物語の主人公を思いうかべて興味をもったことと思われる。
天禄元年(九七〇)摂政、翌二年太政大臣、三年には贈正一位。才貌ともにすぐれ、和歌に巧みで天暦五年(九五一)和歌所の別当となり、『後撰集』の撰集に参画。家集に『一条摂政御集』がある。『後撰集』以下三十七首入集。