第八十三首
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
皇太后宮大夫俊成
藤原俊成 (1114-1204) 藤原俊忠の息子で、定家の父。優れた歌人で、歌学者でもあった。後白河院の命により『千載集』を編纂。
部位 雑 出典 千載集
主題
夜の苦しみ、つらさをはらうすべのない深いさびしさ
歌意
世の中には悲しみやつらさから逃れられる道はないのだろうか。世間からずっと離れた山奥でさえ、鹿が妻恋しさに悲しげに鳴く声が聞こえてくる。
この俗世をのがれて、山の奥へのがれる遁世の身に、なお鹿の鳴く音がもの悲しく聞こえて、とてもこの世では、憂さからのがれることもできないと深く述懐する心を、「世の中よ 道こそなけれ」とまず二句切に言い切り、第三句以下鹿に実感をよせて余情深くよんでいるところ、王朝末の深いさびしさを巧みによみ得ている。
家集に『長秋詠藻』。『詞花集』以下に四百十五首入集。