第八十二首
思ひわび さてもいのちは あるものを
憂きにたへぬは 涙なりけり
道因法師
(1090-?) 俗名を藤原敦頼。父は治部丞清孝。主に晩年、歌壇で活躍したといわれる。
部位 恋 出典 千載集
主題
つれない人を恋慕うことのつらさ、悲しさ
歌意
長い年月、つれない恋のため思い悩んでいても、こうして死にもせず命はあるのに、それでもそのつらさに耐えられなくて流れて仕方がないものは涙であることよ。
「思ひわび」 相手のつれなさを恨み、わが身の憂きを嘆きわびること。
「憂きにたへぬは」 つらさにたえないで 涙ばかりがこぼれ落ちることだ。
道因法師の和歌に対する思いは相当のものだったようで、和歌が上達するように七十を越えてから住吉明神に月詣でをした話があります。また、『千載集』に本人の死後に十八首が採られたことのお礼を言うために藤原俊成(撰者)の夢にでてきた話もあります。
承安二年(1172年)出家。
『万葉集』に訓点を試みてもいる。『千載集』以下、勅撰集入集十一首。