不思議活性

廃墟(アサマモーターロッジ)と私  1・2


 
    『 廃墟(アサマモーターロッジ)と私』
      
      1

 人生、こうしてこの世に生きているということは、ときにそれは楽しいことではないでしょうか。箸が転んでも可笑しい年頃なんて言葉がありますが、この世に生まれてきた赤ちゃんや幼子の瞳を覗きこむと、それはそれは、世界が笑っていると思われても不思議ではないですね。また、この世に生まれてきたものは、いつかはこの世から消えてなくなってしまうのですから、明滅するそのときどきに、なにか心に感じられればそれでいいのでしょう・・・。
 今はなき想い出です。ところどころにひびが入った、赤レンガ造りのなんだか雰囲気のある廃墟に魅せられたのは、詩人・立原道造が恋人と歩いたという追分に勤務していた時でした。傍らの林のなかの、分厚いコンクリートで固められた要塞のような不思議な建物に出会ったのです。今はその廃墟もきれいに片づけられて跡形もないのですが。これからお話する物語は、私の平凡な日々に、ちょっとしたときめきをもたらしてくれた亡き廃墟と私のお話です。
 そう、48 歳から57 歳の10年間、軽井沢町追分の標高1000 メートルの小さな茶屋で働いていた私です。その小さな茶屋の傍らに、かつてアサマモーターロッジと呼ばれたその廃墟があったのです。そこは、一年中爽やかな風が流れ、訪れる人たちは皆、木陰で日々の喧噪を忘れてくつろいで行きました。

      2

 私はある日、ステファニーと出会ったのです。ステファニーは、一人旅の途中で、ふと、廃墟に立ち寄ったのです。初めて出会ったステファニーとは不思議に話が弾み、自分を透明にするという不思議なおまじないを教えていただきました。それは、あらゆるものは振動しているのであり、その振動数を高くしていけば肉体の束縛から離れ、透明人間になれるということでした。私とステファニーとの出会いはその一度だけでした。でも透明になる術を身につけた私は、ときどき、透明人間になってみたのです。

  『テレパシーな恋心』

ぼくが ステファニーと出会ったのは 
赤レンガ造りの小さな廃墟の前だった 
ステファニーは 自転車の一人旅の途中 
ぼくは 灰色の瞳のステファニーが 
なぜか 宇宙からの 訪問者のようにおもえたのです 

どこかの国の映画だったか 
夢に見た建物が 
宇宙への交信基地だったという話があったような 

ぼくは プレアデス星団という言葉に なぜか 
懐かしいおもいを抱きながら 
しばし ステファニーと 話すことなく 
テレパシーで交信したのでした 

「人間には 生まれかわりがありますが 
あなたの星でもそうですか」 

「はい わたしの星でもそうです でも 
地球人として 生まれかわる人は多くはいません」 

「あなたの星でも 愛という言葉はありますか」 

「はい でも わたしたちの星では 
ハート 心と心の交流を大切にします」 

秋の陽が傾くのは早いです 
競輪選手のようないでたちのステファニーは 

「じゃ 目的地に着いたら 絵ハガキを送るからね」と 

ぼくは 小さく 小さくなって行くステファニーの後ろ姿を 
見送りながら 

「この地球上の どこかで また 会えたらな・・・」 

やがて 遠くに見える アルプスの山並の上の 
白い雲が マジェンタ色に 染まりました 

 ステファニーと別れたその年の冬も、標高千メートルにある廃墟は時々雪に覆われ、私はというと、その廃墟で自然と透明人間になるのでした。


・続きは次回に・・・・。

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