ティターンズーcosmic.seedー
第二話①
訓練の全てのカリキュラムを終了し、私たち三名は、晴れて新たな部署へ移動、配属された。
そして、人体改造が行われていたことなど微塵も知らない私たちは、「漸く」という気持ちで新たな部署である空間警務隊に配属され、自己紹介もそこそこに任務に入った。
待機室でフライトの時を待つ。
その時が来たようだ。
旅客宇宙船インディペンデンス号が出港、地球を離脱した。
一時間後、私たちも発進準備に入る。
私たちが機上する最新鋭機F/A31パラディーンは高機動ブースターを装着する事で、単体で大気圏離脱を可能にする。
特別仕様のフライトスーツ。
通常の空間パイロットスーツではなく、A.I同調・形態記憶対Gサポートシステムパイロットスーツを着用しなくてはならない。
機体に搭載されている全機共通のA.I=ヴィーナスとA.I搭載型アビオニクス
(ヘッドアップ・ディスプレイ)
ヘルメットを介し、同調する事で、より機能向上する。
私たちは「スライムスーツ」と呼んでいる。
身体のラインがくっきり解る。
着ると言うより、包まれてゆく感じだ。
包まれてゆく間は、半透明なのだが、保護色と言うかカメレオンのようにスーツの色が変化してゆく。
色が着くと恥ずかしさは、不思議と無くなる。
白を基調としたパイロットスーツ。
三人とも身体にピッタリ感が、とてもお気に入りだ。
A.Iチップをナノレベルで液体金属に練り込み、今の技術力で出来る限りるめいいっぱい薄く伸ばした生地。
対G、耐寒、耐熱、通気性等に優れた人工知能を備えた生地。
此方をインナーにして、通常の宇宙空間用パイロットスーツをその上から着ても良いくらいに思える。
私たちは待機室を出て、私たちを待つ愛機が格納されているハンガー(格納庫)に向かった。
各自まず、飛行前の外部点検。
機首から時計回りが基本。
そのあと、機体上部をチェック。
次にキャノピーを開け、キックインステップ脇のキャノピー外部コントロールハンドルを使います。
ボタンを押してハンドルを引き出し後方に回します。
コックピットに座り座席のチェック。安全ピンがはずされているか確認。
エンジンをスタートする前に70項目のチェックを行います。
※スクランブルの場合は12項目。
そして、いよいよエンジンをスタートだ。
メカニックに対し指一本あげて合図し、エンジンマスタースイッチをオン。
A.Iヴィーナスが機動、ここからはヴィーナスと二人で発進手順に入る。
ヴィーナスの指示に従い動作する。
「ジェット燃料(JFS)スターターをオン。」
約15秒待つとスターターのレディランプが点灯。
火災警告灯が点灯していない事を確認した。
「エリカ。メインエンジンスタート。」
エンジンをスタートさせた私は、次に指2本立ててメカニックに合図し右側のエンジンスロットルフィンガーリフトを上げた。
スロットルを18%に。
「ファンタービン入り口温度計が600度に安定。」
同じ手順で左エンジンもスタートさせた。
両方点火したらJFSスイッチをオフにし、空気取り入れ口ランプをオート、ECCスイッチをサイクルに。
次にテストスイッチボタンを押して、各システムの警告灯が正常に点灯するかチェック。
「エリカ。オールノーマル。」
同時に慣性航法装置のアライメントを実施。
「ヴィーナス。チェックリストどおりにタキシー前チェック完了。」
メカニックに輪止めを外してもらいタキシングを開始した。
ブレーキを踏んで作動チェック、飛行計器が正常かチェック。
カタパルトへパラディーンが接続された。
「エリカ。メインレーダーON。」
ハーネスを再チェック。射出座席アーム、舵作動チェック、フラップ距離ポジションチェック、トリム距離位置チェック、キャノピーが完全に閉じているかチェック。
「ピトーヒーターON」警告灯が点灯していないか確認。サーキットブレーカーが納まっているかチェック。
カタパルト上でブレーキを踏み込み左右のスロットルレバーをミリタリーパワーまで前進させ回転計、油圧計、燃料流入計、ファンタービン入り口温度計をチェック。
「回転数90パーセント以上、タービン入り口温度322度。」
「ヴィーナス。正常を確認。」
「ブレーキを離し、スロットルを80パーセント。」
「ミリタリー位置まで動かします。」
「此方、管制、オールグリーンを確認した。」
「射出する。」
動き始める機体。
小刻みにエンジンの鼓動が伝わる。
「ピッチ角を10度!」
「射出!」
射出されると同時に水蒸気の雲が、機体を包み込む。
私は、それをおしのけるように速度を上げ、加速させた。
特殊スーツのお陰で、さほどGを感じない。
「アフターバーナー点火!!」
「上昇開始を確認!」
「速度350ノット!!更に加速!!」
旅客機並のG程しか感じない。
そんな感想を考えている内に、我が物顔で機体を包み込む水蒸気の雲は、パラディーンの加速についてこれず、気がつけば眼下、遥か下に消えゆくその姿を確認出来る。
数分後、私たちは成層圏を離脱、星の大海原に到達した。
加速はまだ止まない。
インディペンデンス号が目の前に迫るまで、加速した。
◆
インディペンデンス号。
豪華客船的な要素が、ふんだんに使われた宇宙船。
ただ一つ違いを挙げれば、格納庫が備えられている事。
護衛機でもあるこの最新鋭機パラディーンを最大6機まで収納出来る。
何故なら、この船も我が社である筆菱重工業スペース社が、設計から製造まで請け負って製造された船。
ゆくゆくは、揚陸艦と成る船だからだ。
それ以外は、マジで豪華客船だ。
一流と言う名に相応しいレストランも数店舗、カジノに劇場、お酒を嗜(たしな)むbar、理容に美容、エステ等、街がそっくり船の中に存在する。
景色は漆黒の闇と遠くに見える星。
夜空の景色が永遠に続く退屈な景色。
それを少しでも軽減させる為、地球連邦政府は、軍と共同開発し完成させた人工衛星。
この人工衛星こそが、片道10年もの月日が通常であった地球から土星圏までの航海を僅か三ヶ月で航海可能とした"ワープシステム航法"だ。
【超時空間形成制御システムゲート=ワープゲート】
※ワープゲート間に造り出した"ワームホール"=超時空間トンネルを制御するゲートシステム衛星。
相対性理論によると、物体の相対論的質量は速度が上がるにしたがって増加し、光速において無限大となる。
このため、単純に加速を続けるだけでは光速に達することも、光速を超えることもできない。
そこで、人工の特異点を造りだし利用することにより、超光速を使わずに空間移動を用いている。
これが【超時空間形成制御システムゲート=ワープゲート】である。
超光速航法=ワープ航法というと光より速いスピードとシンプルに考えるかもしれないが、話はそう単純ではない。
例えば宇宙に近道を作るタイプの超光速航法では、光より遅い進行スピードで光より早く目的地に到着する。
これは到着が早いのであって、速度が速いのではない。
現在、このワープゲートは火星軌道上、木星軌道上、土星軌道上と複数存在する。
このシステムが宇宙船のエンジンに組み込まれる時代が来れば、もっとより遠くへ地球人類は足を運ぶ事が可能だ。
「そんな時代が来れば銀河旅行も夢ではないな。」私の心に「ふと。」浮かんだ。
今、私たちは木星圏にいる。
地球を出発して一ヶ月が過ぎた。
月軌道でインディペンデンス号に着船して一週間で火星軌道上に到着、大抵の乗客は、ここから低温睡眠を選ぶ。
一ヶ月以上も風変わりしない景色に飽きるからだ。
レストランや娯楽施設が、いくら24時間で営業していても景色は代わり映えしないし、寄航して大地に足を下ろす事ない。
クルーに関しては、四交代で勤務する。
私たちは三交代でスクランブルに備える。
何故、スクランブルがあるかって?
それは特にこの宙域では、隕石による事故が昔、多発したからだ。
衝突の疑いがある隕石をレーダーで捉えた時点でスクランブルが掛かる。
例え「これ、絶対ぶつからない。」と思っても、万が一に備え、発船(スクランブル)する。
不謹慎だけど、「暇つぶし。」には丁度いい。
次のワープゲートまで8時間と成った。
私は雨宮中尉と交代し、仮眠を取る事にした。
だが、なんと表現したら相応しいのか一応、今は"夢魔"と表現するけど、私はその夢魔に夢の中で襲われた__。
イメージ曲into the night中森明菜ver.
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つづく。
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アインシュタインの方程式
アイザック・ニュートンが導いた万有引力の法則を、強い重力場に対して適用できるように拡張した方程式であり、中性子星やブラックホールなどの高密度・大質量天体や、宇宙全体の幾何学などを扱える。
一般相対性理論によれば、大質量の物体は周囲の時空を歪ませる。
すなわち、重力とは時空の歪みであるとして説明される。
アインシュタイン方程式である。
おおざっぱに言えば、星のような物質またはエネルギーを右辺に代入すれば、その物質の周りの時空がどういう風に曲がっているかを読みとることができる式である。
空間の歪みが決まれば、その空間中を運動する物質の運動方程式(測地線方程式)が決まるので、物質分布も変動することになる。
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この物語りに登場する人物、メカ類等は架空です。
実在する人物、メカ類等とは関係ありません。
使用している画像はイメージです。
一部、NASAの資料及びWikipediaより引用。