冬が苦手である。
寒さに弱いのと、厚着があまり好きではないからだ。できることなら一番寒い季節でもボーダーシャツに一枚羽織るくらいの気候の街で暮らしたい。ただそれを実現するにはわりと大胆な引っ越しが必要なため、避寒の日帰り旅に出ることにした。場所は、初春の房総である。
なぜ房総かと言うと、漠然と暖かいイメージがある(実際気温を見ると海に近いほど最低気温が下がらない)のと、京極夏彦の『狂骨の夢』で九十九里浜の一松海岸という場所が出てきて、通称京極堂シリーズファンとしては未だ見ぬ房総の海が気になっていたからだ。九十九里と銚子で迷ったが、より東の果てに近いのと、漁港の街並みが気になったので銚子へ向かうことにした。
銚子までは4時間近い長旅である。道中本を読んだり、車窓の風景がだんだん都会から離れていくのを見て過ごす。
初めて降りる駅というのはいつでも高揚感がある。南国のヤシの木が出迎えてくれるが、この時点ではそこまで暖かくなく、避寒という感じもない。ただ快晴だ。
名産品のアンテナショップとスーパーが一体になったような施設でまず土産を買う。土産は店が見つかった時点で買わないと後で絶対に後悔する。後戻りしたり、閉店間際に妥協して変なクッキーを買いたくなければ先に済ませるべし。ちなみにスーパーの魚はノルウェー産だった。
目指す外川漁港は、最近Twitterでも話題になっていた銚子電鉄の終点、外川駅から10分ほどの場所だ。せっかくなので途中の駅までは歩いて向かう。
銭湯でガラスブロックを発見。近寄りたいが番犬がいたので断念。
さすが銚子、ヤマサ醤油の工場。タンクをぐるっと回る階段がかっこいい。
意外と曲がりくねった道で何度か迷い(あと写真を撮っていたので時間を食った)、1時間に1本しか来ないダイヤを考え目的地の一駅手前で妥協する。この時点でじんわり汗をかいている。図らずも失敗が避寒につながった。
電車を撮影する趣味はないが、カラーコーンと電車を一緒に撮ってみた。
休日の銚子電鉄は椅子が大体埋まり、立ちの乗客もいる程度の混み具合で、ほとんどは鉄道愛好の士と言った感じ。愛想のいい車掌さんが切符の検札をしてくれる。車内アナウンスも洒落が効いていて飽きない。
終点外川駅は趣のある駅舎。名物ぬれ煎餅を買うときに駅員さんのいる部屋がちらと見えたが、昭和初期を思わせる部屋に電子レンジと昼のニュース番組の映る液晶テレビがあって少々混乱した。
ここまででわりと歩いて空腹になったため、予習していたラーメン屋に向かう。徒歩10分くらい。
店名の「歩夢蘭」は野球好きの店主がつけたらしい。ホームランラーメンは角煮をバットに見立てた看板メニューだそう。角煮は意外にも八角の効いたくせのある味。
腹を満たして外川漁港へ。坂を下るごとに空気が浜に近づいている気がする。軽トラックが坂道を上っていく。観光客らしき一組以外は、地元の人もまばらだ。
南中の太陽が眩しく、写真を撮っても逆光になる。もう海はすぐそこだ。
外川漁港は一般人は立ち入り禁止らしいので、遠巻きに眺める。
防砂林。これだ、これを見に来たのだ。
外川の街で出会ったガラスブロック。見つけたときはあまりの美しさに目を奪われた。すべて「みやび」というタイプだが、色に工夫が凝らされている。ブロック塀の間に埋め込まれているのは初めて見た。片道数時間が無駄じゃなかったと思った。
外川の街を後にして、犬吠埼へ向かう。銚子電鉄の犬吠駅は大混雑だった。やはり観光スポットは強い。
途中で見つけた駐在所が洋館建築だった。
有名な絵画「落ち穂拾い」の風景は房総半島にもあったようだ。春は遠いようで近い。まだ行ったことがない街も、足を運んでみたら同じ感想を持つのかもしれない。
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